春のセンバツはいよいよ、ベスト4以上の戦いを残すのみとなったが、今大会には中学時代に「世代最強右腕」と目された“高知の怪童”が出場していない。中学3年の夏に軟式球で球速150キロを記録した高知高校・森木大智だ。まだ甲子園に出場したことのない森木も、春から高校3年生。高校最後の夏に向けて、どのような準備を進めているのか。
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第93回選抜高校野球大会の開幕を11日後に控えた3月8日、宮城・仙台育英が高知高校と練習試合を行うという情報を聞きつけた私は、すぐに高知に向かった。
3月6日の対外試合解禁日から、仙台育英は地元を離れ、広島、高知を移動し、そのまま甲子園に入るというスケジュールを組んでいた。仙台育英の仕上がりを確認するだけなら、大阪で予定された履正社との試合に足を運べばいい。わざわざ高知に向かったのは、もうひとつ、目的があった。
高知高校には、森木大智がいる。高知中時代に、軟式球ながら150キロを記録したあのスーパー中学生も、高校の最上級生となっている。
高知に向かう直前、森木が左足首を捻挫し、練習試合に登板しないということは、仙台育英の須江航監督から聞いていた。それでも、いまだ甲子園のマウンドを踏んでいないあの球児の最後の夏に賭ける想いが聞きたかった。
高知高校のグラウンドに到着し、監督室に挨拶に行くと、目の前に森木がいた。大きな左足にテーピングを巻いているところだった。森木とはおよそ2年ぶりの再会だった。顔中にあったニキビが、ずいぶんと落ち着き、大人の顔に近づいていた。
「ちょっと左足首を捻挫してしまって。春の高知大会も厳しいかもしれません。(シート打撃中に)ベースを回って、(進塁するかどうか)打球判断をしようとして、迷った時に、グキッとなりました。ケガを負ったのは2月14日。バレンタインデーに、プレゼントもらっちゃいました。トラック用意していたのに、チョコレートは1個もなかった(笑)」
当初は松葉杖をついていたようだが、こんな軽口を叩けるぐらいだから、症状は深刻ではなく快復に向かっていると思いたい。練習試合中はベンチに入り、イニングの合間にシャドーピッチングを行う森木の姿もあった。
「投げることに関しては、平地なら問題ない。ただ、マウンドの傾斜で投げるとなると、まだちょっと怖さがあります。今は軽くジョギングして、体幹トレーニングとか、痛みが出ない範囲でやっています。バットも振ってもいますが、(ケガの箇所をかばって)変な癖がつかないようにだけは気をつけています」
森木は高知中学時代に、仙台育英の付属校である秀光中と日本一の座を幾度も争った。森木は3年時には春の全国大会、夏の全国中学校軟式野球大会で日本一となっている。今年の仙台育英には秀光中を指揮していた須江監督はもとより、エース右腕の伊藤樹ら多くの秀光中出身の選手が在籍している。選抜という大舞台を前に、須江監督が「今年のナンバーワンピッチャー」と評価する森木との対戦を熱望し、練習試合が設定された経緯があったという。そして、仙台育英が選抜1回戦で対戦する明徳義塾は、森木の前に立ちはだかる大きな壁という因縁もあった。