どんなに充実した人生を送っても、やがては“終わり”が訪れる。諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師が、人生の“たけなわ”についてつづる。
* * *
キャスターの辛坊治郎さんが、64歳で冒険の旅に出る。17年続いた『そこまで言って委員会 NP』『ウェークアップ!ぷらす』(ともに読売テレビ)を卒業し、ヨットで太平洋単独横断に挑戦するらしい。
2013年にも、辛坊さんは全盲のセーラー岩本光弘さんとともにヨットでの太平洋横断に挑んでいる。このときは、ヨットにクジラが衝突し、沈没した。自衛隊に救助されるという苦い体験をしている。会見で涙ながらに悔しさを語ったが、そのときから再挑戦を決めていたという。
関西弁で、歯に衣着せぬ物言い。視聴率の取れる司会者として不動の地位を築いてきた辛坊さん。テレビ画面を通してしか知らないが、ひとクセありそうな人となりを、ぼくはちょっとばかり敬遠していた。
けれど、簡単にあきらめないところといい、レギュラーの仕事を辞めてまで挑戦するという潔さといい、なかなかカッコいいではないか。こういうチャレンジング精神が、人生の火を燃やすガソリンになる。悔しいけれど、少しホレてしまった。
『そこまで言って委員会 NP』は、黒木千晶アナウンサーに引き継がれた。彼女に対して、最後の言葉は、「今後はネットは見るな」。炎上覚悟でいろんな発言をしている人だから、ネットでたたかれてもそれほど気にしていないのだろうと思っていたが、心は傷ついていたのだろう。中東でテロ組織に捕まった人に対して「自己責任」と言っていた彼は、挑戦の航海に出た後も、自己責任論を語り続けるのかどうかも興味がある。
人生の宴はいつ終わるかわからないけど……
その辛坊さんは、『そこまで言って委員会』の司会を、やしきたかじんさんから引き継いだ。いくつもの番組を持ち、どれもこれも視聴率が高かった。ぼくも2度ほど、彼のテレビに呼ばれたことがある。
楽屋にいると、たかじんさんが入ってきた。片手には赤ワインのグラスを持っていた。お酒で勢いをつけて、本番に臨んでいるのかと思った。こういう危うさも含めて、関西の視聴率男なのだろう。
彼は、7年前、「ちょっと飲みに行ってくるわ」と妻に言って、亡くなったという。64歳だった。彼らしい人生の幕引きだったということもできる。人生の宴は、いつ終わるかわからない。ただ終わりの予感があるからこそ、宴は楽しく、悲しいのだ。