元ヤクザを描いた映画『ヤクザと家族』『すばらしき世界』が立て続けに公開され、またNHK朝の連続テレビ小説『おちょやん』では、主人公の弟がヤクザになる様子が描かれている。しかしそもそもヤクザとは何なのか、職業と呼べるモノなのか、どうやって生活しているのか。
溝口敦氏との共著『職業としてのヤクザ』(小学館新書)を上梓したフリーライターの鈴木智彦氏が、そうした疑問に答える。
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暴力団を専門に扱う『実話時代』という月刊誌編集部に在籍していたころ、編集業務に加えて原稿も書くようになり、「ヤクザは職業ではない。生き方だ」というパワー・ワードを多用しました。その割にヤクザは事務所を持っているし、看板を使って稼ぐので矛盾するのですが、ヤクザの自尊心をいたくくすぐるらしいのです。
読者を酔わせるセンテンスでもありました。私が編集長となった『実話時代BULL』はクロスワード・パズルの懸賞が読者アンケートの釣り餌です。
「解答の他に、今月の本誌でおもしろかったものを二つ、順番に、また、感想も忘れずお書き下さい」
と注釈があるので、みなハガキに気に入った企画を書いてきます。このパワー・ワードを使うと、決まってトップを勝ち取れました。決め台詞は誰が言ったかも重要なので、ぬかりなく現役のヤクザの口を借りました。何度使っても効果が目減りしないので、他のライターが担当するインタビュー原稿でも、編集方針としてそう言わせるように指示します。金で動かず、道理で引かず、命の殺り合いになっても男を曲げない……美学の実践こそヤクザの道を極める“極道”だと匂わせ、浪漫を呼び起こすわけです。娯楽としてのヤクザ読み物はファンタジーなのです。
作家・子母澤寛は「やくざものは面白ければいい」と断言しています。当時はまだ、子母澤の価値観がかろうじて社会に通用した時代です。ヤクザは嫌われ、恐れられてはいても、同時に愛すべき隣人でした。
極東会(新宿歌舞伎町に本部を置く指定暴力団)の大派閥である眞誠会には『限りなき前進』という機関誌の編集をしていた親分がいて、よく訪問しました。本部のあるビルはパン屋さんの組合が大家さんです。試食品なのでしょうか、事務所に原稿を持っていくと、ときどき焼きたてパンのいい香りがする。牧歌的で、今風に言うならエモい光景のおかげで、脳内でしっかりパンとヤクザが紐付けられました。今も運転中にパン工場のそばを通りかかると、その匂いで組員や親分を思い出します。
暴力団の時価総額を決めるもの
ヤクザは職業ではない……そういっても一面の正しさはあります。一般人の多くは誤解しています。暴力団は、犯罪を直接の業務にする組織ではないのです。会社のように利益を生み出すために一丸となって分業し、活動していません。そもそも組織に金を払っても、金はもらえません。