今置かれた状態を将来に延長すると、ヤクザは食うな、存在するな、といわれているのと同じです。ヤクザが生き残るためには、せめてヤクザがふつうの商売、仕事をやることを認めようという世論が盛り上がる必要があります。
ヤクザが法令を守るなら、飲み屋をやってもいいし、土建業や人材派遣業、建築物の解体業、あるいは警備業、ビルのメインテナンス業など、負のサービス業ではない、正のサービス業への従事を認めることしかないでしょう。
それとヤクザにとって望ましい制度改正は、組をやめた後、5年間はヤクザ並みに扱うとする各業界の暴排条項を撤廃させることです。広く知られたことですが、今は元ヤクザでも新しく銀行口座を開けません。そのためサラリーマンになっても給与の自動振り込みができない。民間アパートでも借りるのが難しく、車を買うんでもローンを組めず、スマホさえ買えない。
このまま進むとヤクザという職業は存在できず、ヤクザがそのときどきに行うシノギも遂行できない。ヤクザはヤクザから脱落し、半グレに加わり、半グレからも脱落して、単に常習的に犯罪を行う人たちへ零落するはずです。
ヤクザがなくなったおかげで犯罪のない平和な社会が実現するかといえば、単に悪事に手を染めるカタギが最近、増えたってことになるでしょう。半グレでなく、国民の大半が禁止法令を守らない。隙あらば、隣人の物さえ奪って恥じない国民ばかりとなったら、さぞかし日本は住みにくい国になるでしょう。倫理性のない後進国への後退です。
※溝口敦/鈴木智彦著『職業としてのヤクザ』(小学館新書)より一部抜粋