19才で出会った彼と、22才で結婚し、翌年出産。屈託のない笑顔で娘のことを語る彼女は、至って普通の若いママだ。ただ、彼女は21才でステージIVのがん宣告を受けた──青森県出身の遠藤和(のどか)さん(24才)が、命がけの出産にかけた思いを振り返る。
和さんの大腸がんが発覚したのは2018年9月5日。同年10月3日に、がんの進行は「ステージIV」という診断を受けた。「一刻も早く抗がん剤治療を」という医師の言葉を和さんは受け止めきれなかったという。
「大腸がんとわかってはいても、詳しい病状はわかっていなかったので、ステージIVという診断を聞くまではすぐに治ると思っていたんです。『抗がん剤』という言葉を聞いて『そんなに悪いんだ』と。さらに、『抗がん剤治療の副作用で不妊になることがある』と説明を受けました」(和さん・以下同)
子供を生めないかもしれない──21才の女性にとって辛い宣告だったことは想像に難くない。医師からは同時に、「抗がん剤を使用する前に、卵子を凍結保存しておく方法がある」と説明された。彼女は、当時の胸中を日記に書き記していた。
【2018年10月3日(水)】
〈抗がん剤の副作用で不妊になる可能性あるって言われて悲しくてたまらない。卵子凍結か、このまま治療か。卵子だけ残しても、妊娠できる確率はすごく低い。不妊になったら今(卵子を)採らなかった事を後悔すると思うけど、何百万円もかけられない。結婚してないから受精卵も作れない。小さい時からお母さんになるの夢だったから諦め切れない。悲しいけど、辛いけど、現実的に考えて、このまま治療した方がいいかな〉
卵子凍結の工程は、月経開始直後から開始する。和さんがステージIVの大腸がんと診断された10月3日は、月経予定日の2日前。迷っている時間はなかった。
「主治医から『抗がん剤治療の開始は次の月経まで待つことはできない』と言われました。2日間で、抗がん剤治療を始めるか、卵子凍結をするか、選ばないといけなかったんです」
悩みの種はもう1つあった。日本生殖医学会の指針によると、受精卵の凍結保存は、基本的に婚姻関係にあるカップルにしか認められていない。和さんは当時未婚だったため、未受精卵子を保存するしかなかった。「本当は妊娠率が高いとされる受精卵を保存したかった」と和さんは振り返る。
「(夫の)遠藤(将一)さん(30才)と付き合い始めて2年経ったころでした。遠藤さんはいつも私を支えてくれていた。とはいえ、いくらなんでも2日間で結婚までするというのは難しいなと思って。私の実家の青森と、遠藤さんの実家の北海道と、両方に挨拶して、婚姻届を出して……というのは現実的じゃなかったから、受精卵は諦めました」
【2018年10月5日(金)】
〈私は卵だけ取るの後悔しない。もしそれで再発して死ぬ事になっても死ぬ直前まで卵取った事は絶対に後悔しないと思う。もちろん成功率は低いから、ダメかも知れないけど、やれる事は全部やったって思えるのかそうじゃないのかは全然ちがうと思う〉
告知からたったの2日間で、和さんは決意を固めた。