人生の後半戦の正念場のひとつが「親の死」だ。父や母が亡くなった後、悲しむ間もなく、待ち受けるのが「おひとりさま」になった親を巡る問題である。おひとりさまになった途端に認知機能が低下するケースは少なくない。3年前に父親が他界し、70代の母親が残された40代女性が語る。
「父の生前から母には軽いボケがあったが、『夫の世話をする』という日課があるのがよかったのか、生活に大きな支障はありませんでした。しかし父が亡くなると症状が悪化し、妙にお金に執着するようになった。毎日のように近所の銀行の支店に行き、『私のお金はどうなっていますか』と尋ね、近所に住む姉が様子を見に行っても『私のお金が目当てではないか』と疑いの目を向けるようになりました」
心臓が凍りかけたと語るのは60代男性だ。
「母の死でおひとりさまになった父が、運転中にブレーキとアクセルを踏み間違えて店に車ごと突っ込んだんです。幸い物損だけで済みましたが、人をはねていたらと思うとゾッとします」
認知症以外でも、疾患を抱える親の介護は重荷となる。母の死後、脳出血で倒れた父を自宅で介護した経済アナリストの森永卓郎氏(63)が語る。
「仕事で忙しい私の代わりに、妻が父の面倒を見ていました。毎朝6時に起きて、父を着替えさせ歯を磨かせる。トイレはなんとか自力で行けるものの、一度でもつまずくと一人では立ち上がれない。家中にナースコールのように警報ベルをつけ、それがけたたましく鳴るたびに、妻は夜中だろうが明け方だろうが飛び起きて駆けつけていました。
1年3か月にわたる自宅介護の末、もう限界だということで介護施設に入ることになりました。そこで発生したのが、費用の問題です。介護施設に払うお金が月額30万円、加えてリネン代などの追加費用がかかる。さらにそれ以外にも新聞代だのなんだので1か月に40万~50万円にもなる。
我々が把握している父の預金口座は1つしかなく、そこに入っている金額だけでは明らかに足りない。その他の口座があるのか父に尋ねても『あるはずだけど、どこにあるかわからない』と答えるばかり。最初のうちは父の口座から引き落としていたが、すぐに底をつき、自分たちで負担することになりました。父がおひとりさまになってから亡くなるまでの11年間で我が家が負担した額は2000万円くらいにはなっていると思います」
※週刊ポスト2021年4月16・23日号