新しい友達の顔は大きなマスクで半分が隠れ、手をつないで学校までの道を教えてくれるはずの上級生の姿は、ソーシャル・ディスタンスで遥か遠くに背中が見えるのみ。新型コロナウイルス騒動は、小学校生活にも大きな影響を与えている。さまざな制限をうけるなかで、「生きにくさ」を実感する小学生たちも多いだろう。
一方で、この未曽有の危機に大人も子供も一丸となって取り組むことで、予期せぬ効果も生まれた。教育研究家の妹尾昌俊さんが挙げるのは「行事のスリム化」だ。
「卒業式では来賓者を減らしてスピーチの時間を短くし、例年ならば何度も行っていた予行演習にも時間をかけず卒業生と保護者だけが参加するシンプルな式典にした例もあります。すると、卒業生を祝福するという本来の目的がよりくっきり浮かび上がり、感動的だったとの声が多かったそうです。今後コロナが収束しても、“見栄”を気にせずに学校行事を柔軟に見直す努力を続けるべきだと強く感じました」(妹尾さん)
子供たちが「なぜ手洗いやマスクが必要か」を自分の頭で理解して実践するようになったことも大きな副産物だ。神奈川・横浜市立日枝小学校の住田昌治校長はいう。
「学校が再開した当初、ほとんど登校したことのなかった新1年生のなかには、2か月家庭で親と過ごした後、ひとりでなじみのない場所まで行って感染リスクにさらされながら過ごすことに不安を感じ、校門に入れなかったり泣き出してしまったりする子供も多かった。
そこで不安を少しでも軽減させるために『どうやって対策すれば不安が減るだろう』と自分で考えてもらい、休み時間に遊んだ遊具を消毒したり、外から帰ってきたら手を洗ってハンカチで拭くことを実践するようになりました。
すると不安感が消えるとともに、例年なら何度か学級閉鎖になるインフルエンザが2020年度はゼロに。自分で考えて行動した結果、心身ともに健康を取り戻せたこの経験は将来の感染症予防にも役立つはずです」
住田校長が何よりもうれしいと感じたのは、苦しむ友達や先生の姿を見た子供たちが「みんなを笑顔にしたい」と考えて自ら行動するようになったことだ。
「1年生に限らず、昨年度の学校生活は例年以上にがまんや制約を強いられました。そのなかで悩み苦しみながら頑張る先生たちの姿を見た子供たちが、どうすればみんなが笑顔で過ごせるかを考えて、花壇に花を植えたり、近くの川でつかまえた魚やエビを集めて飼育して“簡易水族館”を作ったりしてくれました。自分のことだけでなく、みんなが元気になれることを考えて行動できるようになったのは大きな成長だと思います」
映画化もされた『みんなの学校』の舞台となった大阪市立大空小学校、初代校長の木村泰子さんも「小学校で学ぶべき本質は想定外のことが起きる世の中で共生できる力」と声をそろえる。
「1+1=2、というようなことは、学校に行かなくても勉強できます。ですが多様性を持った子供たちが集まる学校では、正解のない問いを問い続けることができる。コロナで大きく変化を迎えるいま、身につけるべき力はどんなことが起きても共存できる、柔軟な対応力だと思う」(木村さん)
※女性セブン2021年4月22日号