ひとりで暮らす親の健康状態が悪化したら、同居や施設入所を視野に入れる必要が出てくる。だが子供の意向を親がすんなり受け入れるとは限らない。都内の60代男性が語る。
「80代の母は認知症が進んで徘徊するようになり、ケアマネジャーと相談して施設に入れることにしました。母には内緒にしていましたが、いざ迎えの車が来ると何かを察知したようで、赤子のように泣きながら家の柱にしがみつき、『助けて! 助けて!』と叫ぶんです。見ていてかわいそうになり、しばらく入居を見合わせることにしました」
施設を嫌がるならば同居という選択肢を考えることになる。しかし良かれと思って同居を持ちかけても、拒絶される場合もある。
「田舎に住む親の片方が亡くなるとこんなに大変とは思いませんでした」としみじみ語るのは、大阪在住の60代元銀行員。
「母が亡くなって、兵庫にある実家に残されたのは90歳の父でした。高齢で心配になり、長男の私が『大阪で一緒に住めへんか』と呼びかけましたが、父は『生まれ故郷を離れたくない』と拒否。仕方なく父の家から車で片道1時間半の距離に住む弟ふたりが交代で様子を見に行っていました。
仕事もあるのでずっと続けるわけにもいかず、かかりつけの医師に相談してへルパーを紹介してもらいましたが、父は『知らない人を家にあげたくない』と拒絶。何とか説き伏せ在宅介護サービスを使うようにしました」
だがヘルパーを入れると問題がさらに広がった。
「知らない人と顔を合わせるストレスから猜疑心が高まり、『ヘルパーがお金を無駄遣いする』『家の権利書や通帳が盗まれるのではないか』との電話が頻繁にかかってくるようになった。そうした父の態度でヘルパーが長続きせず、ついには来てくれる人がいなくなりました。
再び兄弟で交互に介護するようになりましたが、最終的に父は母の死から1年ほどで亡くなった。施設に入れておけば楽だったんでしょうが、本人が嫌がってできませんでした」(同前)