2度目の緊急事態宣言が明け、街には再び人が溢れるようになった。しかし、人々を取り巻く社会は変容し、意識や生き方も確実に変化している。『自分をまるごと愛する7つのルール』(小学館新書)を刊行したばかりの下重暁子さん(84才)とジェンダー研究や介護研究のパイオニアである上野千鶴子さん(72才)が、コロナ以降の生活について語る。
下重:今日は上野さんに久しぶりにお会いできてうれしい。じっくりお話しするのは初めてですね。
上野:最初に出会ったのは3年前、俳句関連のシンポジウムでした。
下重:上野さんというと社会学者で、日本を代表するジェンダー研究者として有名ですけど、俳人として活躍していらっしゃったこともある。句集を読ませていただいたときは、心が震えました。
上野:俳人というより、俳句を廃業しましたから“廃人”と言った方がよいですが(苦笑)。このコロナ禍で生活にも大きな変化がありました。感染拡大、緊急事態宣言を受けて、地方にコロナ疎開をするようになりました。もともと仕事場にしていた山荘で過ごし、東京に戻ってきたばかり。都会の空気を吸うのは久しぶりです。
下重:東京を離れての生活はどうでしたか?
上野:それが、本当にストレスフリーになったんです。人と会ったり、話をしたりするのが嫌いだったわけではありませんが、その必要性がないのはこんなにラクなのかと。人と会わなくても平気だってことに気づいたんですね。仕事も必要なときだけオンラインでできますし、好きな本に囲まれて静かに過ごせる。こんな生活ができるようになるとは思ってもいませんでした。
下重:よくわかる。私も去年の春から夏は軽井沢の山荘で過ごしていました。自分だけの時間は本当に幸せですね。
上野:私は長い間、東京大学に勤めていましたが、教授であっても研究以外にやらなきゃいけない雑務が山ほどあります。当時の知り合いが言うには、その頃の私は眉間に縦ジワがあったんですね。でもほら、それがなくなりました。
下重:あら、本当! 横ジワはありますけれど(笑い)。
上野:それは自然現象ですから抗えません(笑い)。組織に勤めるのはよっぽどストレスだったんですね。
下重:私もNHKのアナウンサーでしたから、組織人としてのストレスはよくわかる。人とかかわる以上、理不尽は避けられません。