日本を代表する企業のひとつである東芝。かつては石坂泰三、土光敏夫の2人を財界総理(経団連会長)に送り出し、最近でも岡村正が日本商工会議所会頭を務めるなど、財界トップを輩出、日本経済の中枢に位置し続けてきた。
その名門企業が外資系ファンドに買収され、上場廃止となるかもしれない。そこだけを見ると、日本経済没落の象徴のようにも思えるが、むしろ東芝側が望んで買収される節もうかがえる。
〈東芝に買収提案、英投資ファンドなど 2兆円超で非公開化〉
日本経済新聞がこう報じたのは4月7日のことだった。記事には「英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズなどが東芝に買収提案することが6日分かった」とある。そして4月7日朝、東芝の車谷暢昭社長は「提案は来ている」と買収提案を認める。
なぜ買収提案を受け入れようとしているのか
これまでに報じられた買収提案の内容をまとめると、(1)CVCは7月をメドにTOBを行う(2)TOB価格は総額2兆3000億円(3)TOB成立後、東芝は非上場企業となる(4)他の投資会社や日本の事業会社にも参加を呼び掛ける――というものだ。
CVCがこの買収をしかけたのは、現在、東芝とアクティビスト(物言う株主)との間で対立が起きており、それが経営に深刻な影響を与えている。TOBで非上場化すれば、対立は解消され、経営スピードが高まり企業価値が上がる、という理屈だ。
確かにアクティビストの存在は厄介だ。3月18日にはアクティビスト側の要求で臨時株主総会が開かれ、株主提案が可決された。東芝取締役会は株主提案に反対していたが、東芝の株主たちは取締役会よりもアクティビストを支持した。
さらに昨年の定時株主総会では、アクティビストは自ら選んだ取締役の選任や、車谷社長の退任を求めた。これらの株主提案は否決されたが、車谷氏の再任への賛成は57%という“薄氷の勝利”だった。
アクティビストが対決姿勢を強めるひとつの原因が、「コミュニケーションを取ろうとしない車谷社長への憤りが背景にある。以前は提案を受け入れたこともあるが、最近は軽視している」というのは東芝関係者。それが、車谷氏の退任要求にもつながっている。