【著者インタビュー】桜井昌司氏/『俺の上には空がある広い空が』/マガジンハウス/1540円
1967年8月末の〈事件発覚〉20歳から、〈人をだました心が自分をも裏切って嘘の自白をした〉同年10月某日。その〈嘘が真実に変わった〉日や〈二十五年間の無実の叫びがたった一七六文字で退けられた〉日、再審が決まり、無罪が確定したあの日まで、桜井昌司著『俺の上には空がある広い空が』には、布川事件に関して著者が無実の罪に問われ、2度に亘る再審請求の末に無罪を勝ち取るまでの経緯と、その時々の年齢とが、目次の形で併記されている。
「本になって改めての感想ですか? 自分では特にないけど、さすがにプロの編集は読みやすいなあ、とは思いました(笑い)」
20歳で逮捕され、49歳で仮釈放。そして2011年5月、64歳で雪冤を果たした彼も74歳。一昨年秋に〈ステージ4の直腸癌〉〈何もしないで1年の余命〉を宣告され、在宅での自然療法を選ぶ中で刊行された本書は実際、冤罪被害者の自著としては相当な異色作といえよう。
〈今、自分にある思考と、そこから生まれる行動は、この43年7カ月に及んだ冤罪体験が創り上げたものだ。素晴らしい支援者と日本一の弁護団に恵まれ、人様の善意に支えられて闘ってきた〉等々、彼は恨み言より感謝を専ら綴り、ついその真意を邪推しがちな当方を、「俺は言葉通り読んでほしいのになあ」と笑顔で諫める、信念の正直者だった。
「かつて僕は過酷な聴取を逃れたい一心で自分を偽り、嘘の自白をした罰に44年も苦しんだ人間ですからね。これからは本当のことだけを言おう、嘘は2度と口にしないって、決めたんです」
1967年8月30日早朝、茨城県利根町布川に住む62歳の大工の男性の遺体が自宅で発見された。この布川事件では、10月10日、知人のズボンを盗んだとして桜井氏が、同16日にはその兄の友人の杉山卓男氏(2015年に逝去)が別件逮捕され、互いの共犯を強制自供させられる形で同23日、強盗殺人容疑でも逮捕状が執行された。
桜井氏は〈本当に恥ずかしい生き方をしていた〉と当時の自堕落な生活を明かした上で、〈私の「自白」を作り上げた3人の警察官〉とのいきさつをH、F、Tと匿名で綴る。検事もそうで、〈本当にやってないならやってないと言いなさい〉と助言してくれたA検事がなぜか異動になり、新任のY検事に開口一番どなられ、〈救ってやりようがない〉と宣告された時の絶望感を、あくまで抑えた筆致で綴る。