人と人との接触が難しいコロナ禍において、高齢者の入院は不安がつきまとう。体験取材でおなじみの女性セブンの名物ライター“オバ記者”こと野原広子の母親(93才)は、先日退院したばかりだという。オバ記者が、コロナ禍での高齢者の入院の難しさについて、告白する。
* * *
「はあ~、こうたどこ、来ね」(もう、こんなひどいところには、来ない)
母ちゃん(93才)は、迎えに行った私と弟夫婦の顔を見るなり、やせて小さくなって怒っている。
病院のエレベーターホールで車椅子の母ちゃんに「おつとめ、ご苦労さまでした」と声をかけると、「フンッ」と笑ったけれど、病院を出て駐車場に向かう間も、目はトンがったまんま。散り際の桜とチューリップにも無反応だ。
肺に水がたまって心不全を起こし、救急車で運ばれた母ちゃんは32日ぶりにシャバに出た。何がそんなに腹立たしいのか。無言の母ちゃんに代わって、何度か着替えを受け取りに行っていた義妹が怒る。「病院の対応、ひどすぎるよ。パジャマを着替えさせてと何度も看護師にお願いしたのに、2週間前のまんまだよ」と涙目だ。
コロナ禍で見舞いが来ない。一人部屋で、話し相手は素っ気ない看護師だけ。湯船に入れずシャワーですませるのも母ちゃんにとって気に食わない。その上、退院予定が2回延びた。それも直前になって取り止めとはどういうことか。
「そら、間際になって40℃の熱が出たんだから仕方あんめな」と弟が言うと、「熱なんか出ねーよ。ただ背中がぞくぞくして、寒くなっただげだっぺな」と母ちゃん。「それが熱が出るってことなんだよ」と弟は笑う。
生涯で一度も風邪をひいたことがないから、熱が出るとどうなるか知らないのよ。ちなみに虫歯は2年前に初めてできたんだとさ。
入院中、怒りに満ちた母ちゃんは病院からの脱走を決意した。小銭を持って公衆電話まで歩いて行って、親戚のトヨさんに「すぐに迎えに来てくろ」と訴えたんだって。それに気づいた看護師は、母ちゃんのバッグから小銭を抜いたんだそうな(笑い)。