10周年にあたり、変わったこと、変わっていないこと
――ちなみに、初めてマンガを描ききったのはいつ頃ですか?
オカヤ:いつだろう? 大学生の頃、友達の同人誌に描いた8ページのマンガがあるんですけど、それが初めてだと思います。『蟹』というタイトルで、蟹を食べているだけのマンガ。その時、マンガを描くのは8ページでもすごい大変だと思った記憶があります。
私の中にはさらっと描けるのがうまい人というのがあって、自分はウジウジ時間をかけて描いているわりにつまんねえなと。けど、中年になって自意識が飛んだのか、最近は描けばいいじゃんという感じですかね。相変わらずゲラを読むのは嫌だし、出版されてしばらくは読み返さないですけど。
――デビューから10年経って、その部分は変わらずですか?
オカヤ:そうですね。しばらく経てば面白いと思えるようになるんですけど、もう本当に嫌ですね。
――マンガは大変と思いながらも描き続けた10年ですよね。オカヤさんを創作に駆り立てたものって何だったんでしょう?
オカヤ:駆り立っているんでしょうか?(笑)
――駆り立っていない?(笑)
オカヤ:それこそ何か理由がなくても描いていいんじゃないかと。あとは、依頼していただいてありがたいなって気持ちは常にありますね。
――オカヤさんの作品は視点が独特ですよね。でも、理解できないとかではなく腑に落ちる。
オカヤ:クリシェが嫌い、紋切り型が嫌いというのはずっとあるかもしれません。でも、常套句は絶対に使わない!とかではないんです。あと、なるべく正直にと思っています。
――なるほど。だから、すっと入ってくるんですね。
オカヤ:人は「ふと空を見上げたり」はしない(笑)
――たしかに(笑)。便利で、つい手癖で使ってしまう言い回しってたくさんありますから。
オカヤ:そういう言い回しに頼らなくても、みんなに伝わるようにできるんじゃないかと思っていて。なるべく正味のところを伝えたい、と思っています。
――使い勝手のいい言葉では言い尽くせないことが描かれているのがマンガですもんね。
オカヤ:自分が読む側のときも、それが快感じゃないですか。「ああ、こういう風に言ってもらえた!」みたいな。私の作品もそう思ってもらえたら嬉しいです。
◇プロフィール
オカヤイヅミ。1978年生まれ。東京都生まれ。独自の感性で日常を切り取った『いろちがい』で2011年にデビュー。著書に『すきまめし』『続・すきまめし』『ごはんの時間割1・2』『ものするひと1・2・3』『みつば通り商店街にて』ほか、人気作家へ理想の「最後の晩餐」について訊ねたエッセイコミック『おあとがよろしいようで』など。デビュー10周年を記念して、『白木蓮はきれいに散らない』と『いいとしを』を同時発売し話題になっている。
文/山脇麻生
撮影/横田紋子