4月16日、劇団四季の新作『劇団四季 The Bridge ~歌の架け橋~』の全国公演が開幕した。この全国公演は半年前にスタートしているはずだったが、新型コロナウイルスの蔓延で半年間の延期を余儀なくされ、もう1つの新劇場[春]のこけら落とし公演となった。昨年は上演回数が半減し、年間売上損失が50億円近くに上った劇団四季は、「舞台なんて必要ない」という世論をどう跳ね返したのか。
劇団四季には、創立当初から受け継がれてきた教えがある。
「慣れだれ崩れ=去れ」
「一音落とす者は去れ」
慣れてくると、気が抜けて、身につけてきた技術や心構えが崩れてくる。劇団四季で最も重視される「言葉」を、ただの一音もおろそかにせず、明確にお客さまに伝えなければならない、という教訓だ。
日々の研鑽が直結する仕事でありながら、稽古場でレッスンを受けることさえ許されない状況に突き落とされた俳優たちは、自宅待機という制限下でのコンディション維持に懸命に取り組んだ。今回初めてソロパートを歌う牧貴美子さんもその1人だ。
「2018年に入団したばかりなので、まだまだ新人。なんとか歌の練習をしたくて、消音機能つきメガホンを購入して、できるだけ近所の迷惑にならないよう、声を抑えながら練習していました。それまでは“自分の声がどう響いているか”にばかり気を取られていたので、自分で自分の歌声がよく聴けない環境は、かえっていい練習になったといまでは思っています」(牧さん・以下同)
幼い頃から歌うことが好きだった牧さんは、舞台俳優になることに反対する両親を納得させるため、大学卒業後に私立の音楽大学の大学院で声楽を学び、2度目のオーディションで見事合格、晴れて劇団四季に入団した。
透明感がありつつも意志の強さを感じさせるよく通るソプラノで、『The Bridge』では、『リトルマーメイド』や『アイーダ』などの名ナンバーに参加している。しかし、舞台上での堂々とした姿とは裏腹に、「自分にあまり自信がない」という。
「この作品のテーマは、劇団四季の創立当初からの『これまで』と『これから』。新人の私が、自分が生まれる前から続いている劇団の歴史を表現するなんて、最初は不安しかありませんでした。いまでも、私に何ができるんだろうと、悩みながら模索して、ただ全力で舞台に立っています」
今回、牧さんと一緒にソロパートを歌う笠松哲朗さんは、小学6年生の頃に『ライオンキング』でヤングシンバ(主人公シンバの幼少期)を演じた経験を持つ。
「ジャズダンスは3才頃からやっていましたが、歌は習ったことがありませんでした。ヤングシンバのオーディションは合格したものの、歌は壊滅的だったんです」