コロナ禍で家にいる時間が増えたいま、家にいながらにして非日常を味わうなら、映画がいちばん! そこで、「ムシャクシャするからスッキリしたいとき」に観たい作品と、「心がとろけるほどウットリしたいとき」に観たい作品を、映画評論家の渡辺祥子さんとイラストレーターの石川三千花さんに教えてもらった。
◆渡辺祥子さんのセレクト
・スカッとできる映画
『ダイ・ハード』
テロリストのビル占拠に巻き込まれた刑事の孤軍奮闘物語。監督:ジョン・マクティアナン、出演:ブルース・ウィリス、アラン・リックマンほか。1988年・米。131分。
製作30周年記念版 <4K ULTRA HD+2D ブルーレイ/2枚組>6589円★。デジタル配信中。発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン。
・キュンとできる映画
『花様年華』
お互いの伴侶に不倫されていることを知ったチャン夫人とチャウ。隣同士に住む2人の、暗く密やかな交わりを描く。監督:ウォン・カーウァイ、出演:トニー・レオン、マギー・チャンほか。2000年・香港。98分。好評配信中。
『ダイ・ハード』というと、あまりにベタだと思うでしょ? でも、ブルース・ウィリスのアクションが見事。悪役は、英国の舞台俳優で、名優といわれた故アラン・リックマン。B級ではなく、本物の役者が体を張って演じているところが面白いんです。
かつて、牧野省三監督が「1筋(ストーリー)2抜け(映像)3役者(演技)、これがそろって初めて映画は面白い」と言っていたのですが、『ダイ・ハード』はまさにこれです。何度観ても、テレビでやっているとつい観てしまいます。ほかにもいい映画はありますが、『ダイ・ハード』のように、体に撃ち込んでくるような楽しさはなかなかない。文句なしに「映画は娯楽だ」と思える作品です。
一方の『花様年華』は、アジア映画特有の情感がある。特に、この作品のしっとりとしたロマンチシズムは抜きん出ています。
同じアパートの隣り合わせに住んで、男の下心で妻の愛人の奥さんに手を出そうという暗い設定から始まり、だんだん恋の深みに落ちていく。人生の経験を重ねると、どうにもならないことにがんじがらめに縛られる。その中からあふれ出た思いだからこそ、切々と訴えるものがあるんです。大人でないと、この映画の真の魅力はわからないかもしれません。
マギー・チャンの演技もいい。暗がりに佇んでいるだけで、すごい存在感だなあと思います。そしてトニー・レオン! 色気があって、しかもどこか我関せずみたいな雰囲気だから、「こっち向いて!」と言いたくなる(笑い)。
【プロフィール】
渡辺祥子さん/映画評論家。新聞、雑誌、テレビ、ラジオ等で活躍中。映画関係者のインタビューも多数。「渡辺祥子のシネマ温故知新」(NHKオンライン)、日経新聞金曜日の映画欄「シネマ万華鏡」などで連載中。