今から一年前、新型コロナウイルスの感染拡大によって一回目の緊急事態宣言が発令されたころ、世間の、そしてネットの厳しい目はパチンコ店に集中していた。休業する店舗が増えるに従って、営業を続ける店舗に非難が集中、極端な場合は店舗前で抗議行動をするグループもあらわれた。そしていま、非難の矛先はどこへ向かっているのか。俳人で著作家の日野百草氏が、家飲みまで禁止される例が出るなど、すっかり悪者になりつつある「酒」をめぐる混乱と困惑をレポートする。
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「うちは家飲みも禁止になりました。自分が飲まないからって酷いものです」
筆者の後輩、細井順矢くん(30代後半、仮名)の電話はいつもの泣き言から始まった。フリーのエディトリアルデザイナーの彼は妻あり子なし、筆者と同じ家族構成だが、その「妻」が彼の悩みだ。日ごろ、社会運動に熱心でとにかく気の強い奥さんだが、今回もまた、細井くんにある命令を下した。それが”家飲み禁止”だという。
「家で飲むのは禁止されてないはずなのに、非常事態宣言だから飲酒は禁止って無茶苦茶言うんです。ぜんぶ小池(東京都知事)のせいです」
小池都知事だけのせいでもないし細井くんの言い分は無茶苦茶だが、彼の奥さんは小池都知事などいわゆる”活躍する女性”の熱心な信奉者だ。奥さん自身は諸事情で働いていないが、女性の権利や自由に対する意識はものすごく高い。ある程度時間のある身なので区民活動にも参加している。年金者の多い政治系のボランティアで、30代は若いほうなので重宝かられているという。いまやほぼ全員当選なので区議会議員くらいにはなれそうだ。
「議員は勘弁ですが、活動は趣味みたいなもんだから好きにして構いません。でも今回の件は極端すぎます。飲酒そのものは禁止されてませんよね?」
それはそのとおりで、あくまで感染予防のための店舗や屋外での飲酒禁止であり、家で酒を飲むことは禁止されていない。これでは単なる恐妻家の愚痴でしかないが、筆者が気になるのは、こうした飲酒そのものに対する攻撃が緊急事態宣言下に増えつつあることだ。実際に筆者も目撃しているが、世の中にはおかしな人がいるもので、店舗や屋外での飲酒行為が咎められているだけなのに、酒そのものを禁止とわめく人がいる。
「そう、それです。うちの区でもコンビニの前で”酒なんか買うな!”って老人に怒鳴られてる若いグループがいました。誰が頼んだわけでもないのに自粛警察気取りです」
こんどは酒かよって思いますよ
どれだけ繰り返せばいいのか、筆者も中央線沿線の交番で「あの店がまだ酒を出してるぞ! 捕まえろ!」とわめく老人を目撃した。警察官は「わかりました、見回ります」と返すだけ。それはそうだ。その時は4月24日で19時過ぎ、その居酒屋はなにも問題ない。勘違いしているのだろうが、もはや注意がしたいがために徘徊し、とんちんかんな正義を振りかざしている。