各地で高校野球の春の県大会、地方大会が開催されている。コロナによる無観客開催も多いが、指揮官も球児も収束を願いながら、晴れ舞台となる夏の甲子園を見据えている。強豪校はそれぞれ“本番”となる夏の地方大会に向けて、様々な戦略を描く。とりわけ興味深いのが高知だ。甲子園常連校の明徳義塾と世代ナンバーワンとも評価される右腕を擁する高知高校が、互いを意識し合った戦いを繰り広げている。ノンフィクションライター・柳川悠二氏がレポートする。
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プロ野球の世界において、試合後の“ぼやき”で野球ファンを楽しませたのが故・野村克也氏なら、高校野球の世界では明徳義塾の名伯楽・馬淵史郎監督(65)がそうした存在だ。とりわけ甲子園で敗れた日のお立ち台では、坊主が説法をするように目の前に陣取る記者を笑わせながら敗因をとうとうと語り、勝負をわけたプレーを忌憚なく解説、最後は「帰って練習します」と必ず口にして甲子園を後にする。「敗軍の将、兵を語る」のが馬淵監督の作法である。
初戦で仙台育英(宮城)に0対1と惜敗した選抜から一ヶ月あまり、馬淵監督のぼやきを再び耳にすることになったのは、5月1日に香川県高松市で行われた四国大会決勝だった。
相手は同じ県の高知高校。同校には、中学時代に軟式球で150キロを投げ、スーパー中学生と脚光を浴びた森木大智がエースとして君臨する。
しかし、この試合では、高知高校の森木も、明徳のエース左腕・代木大和も、先発のマウンドには上がらなかった。春の大会は、秋や夏と違い、甲子園にはつながっていかない大会である。両校共に、夏を睨んで、2番手の投手を先発させたのである。4月11日の春季高知大会チャレンジマッチでも両校は対戦しており、その時は明徳が延長13回タイブレークの末に2対1で勝利していた。
「(チャレンジマッチの勝利により)うちは夏の高知大会の第1シードが決定している。四国大会の勝者が第1シードとなるなら、うちも代木、相手も森木を投げさせたでしょう。負けて良いとは思わんけど、わざわざ手の内を明かすことはない」
そうしたなか、森木はまずバットで魅せる。4回裏、明徳の右サイドハンド投手のスライダーに、泳ぎながらバットを振り抜くと、風に乗った打球はレフトスタンドに飛び込む。ふたりの走者と共に森木は帰還し、4対0とリードを広げた。強風をも味方につけた技有りの一打を浴びた馬淵監督はこう振り返った。
「うまいこと打たれたね。身体が泳いだんだけど、手が伸びたゾーンにスライダーがいってしまって、カツンと打たれてしまった。本当は、サイドスローの投手ならインコースを攻めたいんやけど、デッドボールをぶつけたら何を言われるかわからん。相手は同県やし、投手のインコースを狙う時に気を遣うのは相手も同じでしょう。当ててケガさせたらえらいことやし、彼は逸材。そりゃあ気を遣いますよ」