新型コロナウイルスは、感染が拡大していく中で、新たな変異型が発生する。中国でその存在が報告されてから約1年半、ついに最強のウイルスが生まれてしまったのかもしれない──。
終わらないコロナに気が滅入る中、目を覆わんばかりの惨状なのがインドだ。急激な感染拡大が続くインドでは、1日の新規感染者数が40万人に到達した。1日あたりの死者も連日3000人を超え、5月3日時点の累計死者は約22万人に達する。生き地獄のような状況を招いているのは、「インド型」と呼ばれる変異ウイルスだ。新潟大学名誉教授の岡田正彦さんの話。
「まだ確証はないが、インド型は感染力が非常に強く、感染すると治りにくいため、重症化リスクも高いと考えられます。すでにアメリカの疾病対策センター(CDC)は、インド型はリスクが大きいと判断し、アメリカ政府に渡航禁止宣言を出させています」
インド型の大きな特徴は、ウイルスのスパイクタンパク質(ヒト細胞表面にある受容体と結合する物質)に、「L452R」と「E484Q」という2つの変異が見られることだ。それゆえに、しばしばインド型は“二重変異”とも呼ばれる。
なかでも脅威なのが「L452R」の変異である。東京大学や熊本大学などの研究チームは4月に発表した論文で、「L452R」は日本人の6割が持つ白血球の型「HLA(ヒト白血球抗原)—A24」がつくる免疫細胞から逃れる能力があるという研究結果を発表した。国際医療福祉大学病院内科学予防医学センター教授の一石英一郎さんはいう。
「わかりやすく言うと、通常はウイルスに感染すると、『HLA—A24』というタイプの抗原がSOSを出して、免疫機能を活性化させます。ところがL452Rは、HLA—A24の働きを弱める機能がある。そのため感染すると免疫機能が働きにくくなり、ウイルスがどんどん増殖して重症化しやすくなるのです。
つまり、日本にインド型のウイルスが入ってきた場合、6割の日本人の免疫力では打ち克てない可能性を意味します。しかもインド人でHLA—A24を持つのは2割前後とかなり低いので、日本人がインド型に感染するとさらに危ない状況になりかねない」
そのほかにもインド型には懸念材料がある。
「L452RとE484Qの変異は、ともにワクチンの効果を弱める可能性が指摘されています。アメリカでは、ファイザー製とモデルナ製のワクチンの効果が半減するとの報告もある」(一石さん)
これまで日本人は欧米人と比べて感染者や死者が圧倒的に少なく、その理由として、公衆衛生の普及やBCGワクチン接種などの「ファクターX」の存在が指摘されてきた。だが、世界からうらやましがられてきた「日本の奇跡」は、これ以上続かないかもしれないのだ。
「過去の風邪で獲得した免疫が新型コロナに効果を発揮する『交差免疫』もファクターXの1つではないかとされましたが、インド型では交差免疫も働きにくいとされます。そもそも感染者と死者はアジア全般で少なかったのですが、インドの感染爆発からわかるように、もはやファクターXはアジアで通用しないと考えるべきです」(一石さん)