現在、ビール類といえば、プレミアム系や発泡酒、第3のビールなど多ジャンル、多ブランドの商品が所狭しと店の棚に並び、消費者も選択に困るほど競争が激しくなっている。今年3月、サッポロビール社長に就いた野瀬裕之氏(58)は過去、ブランド戦略部長も歴任するなどブランディングやマーケティングについての造詣が深い。同氏にとって、両分野における要諦とはどんなものなのか、話を聞いた。
──近年、さまざまなジャンルのビールが売られていて、正直どれを購入するか悩ましいほどです。
野瀬:お客様のニーズは突き詰めれば、「プレミアム」か「リーズナブル」かの2つしかないと思っています。この2つをどの商品、どのブランドで表現するかを考えてほしいと社内では言っています。
まずリーズナブルのカテゴリーは、コロナ禍における節約志向で顕著ですが、まさにお買い得商品を指します。たとえば缶チューハイだったら「濃いめのレモンサワー」などがそれに当たりますが、同じ機能ならちょっとお得感のある商品のほうが好まれます。
一方、ビールと新ジャンルの商品を比べると、「ちょっと苦味があって炭酸も効いていて」という意味では同じ機能を持っています。同じ機能だったら価格が安いほうがいいというニーズに応えるのが新ジャンルなわけですが、ここにプレミアム的な要素を持ち込んでもなかなか成功しません。
では、プレミアムジャンルは何が違うかを端的に言えば、これ「が」いいという商品です。対してリーズナブルなほうは、これ「で」いいという商品のことで、万人にわかりやすく極力シンプルにする点と、スピード感が大事になってきます。
難しいのは、これ「が」いいというプレミアム商品は、それなりのストーリーが必要で、丁寧にご説明していくことが重要です。ですからお客様への浸透には時間もかかります。