日本の流行歌史には脈々とエロティックな歌と歌姫が登場してきた。冒頭の艶めかしい声日本の流行歌史には脈々とエロティックな歌と歌姫が登場してきた。冒頭の艶めかしい声が強烈だった青江三奈、強烈なビートに合わせて腰をグラインドし、子供にまで“これはただ事ではない”と思わせた山本リンダ……。
『にっぽんセクシー歌謡史』(リットーミュージック、5月21日発売)は、女性のエロティシズムを打ち出した一連の歌謡曲の歴史を昭和初期からたどる大著だ。著者の馬飼野元宏氏は、セクシー歌謡史の中で、1960年代後半~1970年代初頭にデビューした4人の歌姫をエポックメイキング的な存在だと語る。
「絶対に外せない歌手、それは『恋の奴隷』(1969年)を歌った奥村チヨです。戦前に始まる『エロ歌謡』、鶯芸者から派生した『和ものお色気歌謡』、1960年代以降隆盛したムード歌謡の派生形など、進化していったお色気歌謡をポップス化した功労者です」
奥村は、『11PM』が放送開始した1965年にデビュー。同年10月発売の『ごめんネ…ジロー』で大ヒットを飛ばし、次々と新曲を出す。
「もともとその声に男心をそそる色気が内包されていましたが、それが花開いたのが『恋の奴隷』。小唄風の節回しを応用した独自の唱法が、歌詞が描くコケティッシュでいじらしくも粋なお色気ワールドにフィットした。指をさすポーズは、目の前にいる男をさすようにというディレクターの指示だったそうです」
この歌は大ヒットしたものの歌詞の問題でNHKの紅白歌合戦では歌えなかった。しかし翌1970年の紅白歌合戦で歌った『嘘でもいいから』こそ、最大の問題作だったと馬飼野氏は語る。
「作詞は川内康範で意外にも作曲は筒美京平。色っぽい歌詞に加え、〈うっふーん〉というアドリブの声も入り、まさしくフェロモン爆発。小悪魔的という意味ではこの曲がピークです」
そして2人目のセクシー歌姫は、1969年にデビューした辺見マリだという。
「彼女の出現は衝撃でした。目が大きく彫の深い美貌で、濃厚なメイクも似合う顔立ちだったからです。デビュー曲『ダニエル・モナムール』は、フレンチ・ポップス調のメロディにエロティックな歌詞が乗る。歌の合間に挿入されるフランス語の語りが、吐息まじりの喘ぐような声で、聴いているだけでエロティックな気分にさせる。2曲目の『経験』が大ヒット、歌詞の〈やめて!〉は流行語になった。『お色気歌謡』をビジュアル面も含めた『セクシー歌謡』へと進化させました」