中国政府の2020年の公式統計では、中国におけるがん患者数は約457万人で、がんによる死者数は300万人だったと発表された。これに対して、中国の名門大学である北京大学の付属病院医師が「治療が困難な一部の末期がん患者を除いて、高価な薬を投与したり、不必要な手術や治療をするなどの金もうけを目的とした過剰治療が原因だ」とインターネット上で告発し、反響が広がっている。
中国国家健康衛生委員会(日本の厚生労働省に相当)は「調査の結果、多くの病院は規範通りの治療を行っており、過剰治療の実態はない」と発表したことから、ネット上では「ちゃんと調査したのか」、「政府の医療規範がしっかりとしていないから、過剰治療が起きるのだ」などとの批判が巻き起こっている。中国のネットメディア「経済観察網」が報じた。
がん治療の実態を告発したのは北京大学第3病院の腫瘍内科医、張イウ氏。張医師は、具体例として、上海交通大学医学部付属新華病院の一般外科の副主任医師が胃がんが肝臓に転移した患者に対し、臨床使用が認められていない免疫療法を1回3万元(約51万円)で実施したケースを紹介。家族は借金をして、通常の10倍にも膨れ上がった医療費をねん出したが、患者は治療後すぐに亡くなったという。
張医師は「製薬会社からのリベートなどを目当てに、がん患者に高額な薬を投与したり、効果が期待できない治療を強要する医師が多い。このため、費用がかかる割には治療効果も高くなく、いたずらに死亡率を上げてしまう」と指摘した。さらに、中国の医学が飛躍的に向上したのは21世紀に入ってからで、1970年代以前は投薬が主な治療方法である「以薬養医(1950年代に始まった中国の医療制度。医薬品が病院の経営を維持すること)」が主流となり、それ以後も、どのように治療していくのかという規範がないことが問題だと主張した。
しかし、その後、張医師は自身の投稿を削除してしまった。これについて、張医師は「経済観察網」のインタビューで「外部からの圧力があった」と説明。大学の先輩医師らから投稿したことについて、批判され、大学病院の診察勤務からも外されていることを明らかにしたうえで、当局の専門家を交えた公開討論会を呼びかけている。