東京都心エリアの新築マンション市場は依然として価格高騰が続いているが、コロナ禍で人気を集めているのが、湾岸エリアの中古タワーマンションだという。だが、住宅ジャーナリストの榊淳司氏は、「安易にタワマンに移り住むと困難な未来が待ち受けている」と指摘する。その理由とは?
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2020年のマンション市場はかなり異常だった。その中でも、特筆すべきは東京の湾岸エリアに見られた中古タワマンのブームとでも呼ぶべき売れ行きだった。
中古マンションの仲介現場からは、「買い手はいるのに、物件が足りない」という悲鳴すら聞こえてきた。当然、価格も上昇基調となった。ただし、それはバブル的な高騰ではなく、需要層の買える範囲内での値上がりであった。
湾岸中古タワマンブームはなぜ起きたか?
いったいなぜ、このような湾岸中古タワマンブームは起こったのか? 考えられるのは、テレワーク需要である。
2020年4月に1回目の緊急事態宣言が発出されてから、東京ではテレワークという働き方が急速に広まった。ところが、テレワークが広まる以前、多くのサラリーマンにとって自宅は「寝に帰る場所」であり、そこで日常業務を行うことを想定していなかった。
ところが、テレワークの普及に伴って多くの人が困惑する。自宅には仕事をする場所がないのである。ダイニングテーブルなどを使った人が多かったようだが、何かと不都合が生じる。配偶者もテレワークを行う場合には、スペースや空間が不十分である。
何より、誰かが同じ空間にいると打ち合わせや会議ができない。ましてや、小さな子どもがいる家庭ではなお大変である。第1回の緊急事態宣言下では、多くの小中学校、幼稚園などが休校状態となった。
マンション居住者の場合、住戸の外に出て共用階段の踊り場で仕事をしていた人も少なくなかった。複数で打ち合わせをすると、駐車場に停めてある車の中から参加している人を見かけることも珍しくなかった。彼らは、言ってみれば「テレワーク難民」である。
「もっと広いマンションに引っ越そう」
「テレワークができる共用施設があるマンションがいい」
そういった需要に答えることができたのが、東京の湾岸エリアに林立しているタワマン群だったのである。80平方メートル以上の住戸も豊富にあり、共用施設は充実。中にはプールや大浴場のある物件もある。敷地内や周辺には小さな子どもが遊べる公園なども豊富。
しかも、築10年以上の物件なら価格はさほど高くない。
何よりも中古物件であれば、即入居が可能である。引っ越してしまえばテレワーク難民から逃れられるのである。そこで起こったのが、にわかな湾岸中古タワマンブーム。多くの人が湾岸の中古タワマンを買い急いだ。
しかし、彼らは本当に賢明な選択をしたと言えるのだろうか──。そこには将来的にいくつかの大きな問題がありそうだ。現時点でハッキリしている問題点を指摘しておこう。