新たに出現した新型コロナウイルスの変異型は、いとも簡単に子供たちの命を奪っていくかもしれない──。「子供はコロナにかかっても軽症」という前提が崩れ去ったとき、社会はどう変わるのだろうか。
3月上旬から国内で新型コロナウイルスの「英国株」が広がり始めた。国立感染症研究所によると、5月9日時点で首都圏では新規感染者の約90%、大阪府、兵庫県ではほぼ100%が英国株に切り替わっているという。
アメリカでは一足早く、日本のこの状況を予兆するかのように、英国株が子供たちの間で猛威を振るっていた。CDC(アメリカ疾病予防管理センター)の発表によると、4月30日〜5月6日までの1週間で、全患者数に占める子供の割合は24%。これは世界的なパンデミックが始まって以来、最も高い割合だ。
さらに変異株の流行に伴って、アメリカで症例が急増しているのが「小児多系統炎症性症候群(MIS-C)」。MIS-Cは新型コロナ感染から2〜6週間の間に発症するとされる。心臓や肺、腎臓、胃腸などの臓器のほか、脳や皮膚、眼球など全身のさまざまな部位で炎症が起こり、下痢や発熱、発疹、心不全などの症状が起こる。最悪、死に至ることがある恐ろしい病気だ。最近、MIS-Cを発症した子供の99%が新型コロナにも感染していたという報告もあり、発症メカニズムの解明が急がれている。
ミシガン州に住む10才の男児は、コロナの陽性反応が確認された後、MIS-Cを発症。心臓機能障害から手足の血液の流れが阻害されたため、最初に右脚、続いて左脚と両手の切断を余儀なくされてしまった。
また、テキサス州の9才の男児は、腹痛のために入院治療を受けていたが、退院後に頭痛や喉の痛み、疲労感を訴えるようになり、コロナ感染が判明。それから1週間後には手足の震えや頭がボーッとするなどの症状が表れ始め、2週間後には歩くことも立つことも困難になったという。新型コロナの症状が長く続いている可能性から検査をするも、結果は陰性に変わっていた。つまり、男児の症状は新型コロナと関連したMIS-Cだとみられている。
日本も例外ではない。ヒラハタクリニック院長の医師・平畑光一さんが警報を鳴らす。
「日本川崎病学会が2月25日に出した通達によると、日本でもMIS-Cの症例が数例あったことが報告されています。今後、子供のコロナ感染者が増えるにつれ、MIS-Cにも注意を払う必要があります」
警戒が必要な変異株は英国株だけではない。すでに国内でも市中感染が確認されている「インド株」は、英国株に比べて感染力が1.3倍。重症化リスクは1.4倍と推定されている。インド株も子供や若年層に感染しやすく、1日あたりの死者数が世界最多を記録しているインドでは、新規感染者の65%が45才未満だ。
英国株やインド株など、変異株の感染拡大によって、生活はどう変わるのだろうか。
「イギリスやイタリアでは、変異株の流行を受けて学級閉鎖が行われました。感染が広がれば日本でも同様の措置が取られる可能性があります。さらに子供を持つ医療従事者が離職し、医療体制が崩壊する恐れもある。
アメリカでは13日から12~15才へのワクチン接種が開始され、ファイザーは11才以下を対象としたワクチンの臨床研究中です。日本でも、子供たちにもワクチンを行き渡らせるような体制を急ぐ必要があります」(国際医療福祉大学病院内科学予防医学センター教授の一石英一郎さん)
高齢者へのワクチン接種が始まったばかりの日本。子供への感染や重症化を防ぐための対策には、まだまだ追いついていない。
※女性セブン2021年6月3日号