コロナ禍で、発達障害による悩みが顕在化している。エッセイストで、ADHD(注意欠如・多動性障害)の当事者でもある小島慶子さん(48才)も、コロナ禍で困りごとを実感しているという。発達障害をコントロールしながら、前向きに生きるコツを彼女が語った。
「リモートワーク中なのに、気がつくと部屋の模様替えをしていたり、本を手にとってしまい、仕事に集中できず業績が落ちてしまった」「オンライン会議で発言するタイミングが分からず、話の流れを遮ってしまった」「マスクをつけなければいけないのに、いつも忘れてしまう」――これらは、「大人の発達障害」を自覚する人たちが、コロナ禍に打ち明けた悩みだ。
エッセイストという仕事柄、自宅で仕事をすることも多いという小島さんは、こんな悩みを抱えている。
「オンライン取材が増えたのですが、リマインダーやカレンダーなどで工夫をしていても、すっかり開始時間を忘れてしまったり、開始1分前に時計を見て気づき、慌てて着替えたりすることがしばしばありますね……。ほかにも、ADHDには『気が散ってしまいがち』という特性がある反面、『過集中』という特性もあるんです。コロナ禍で外出する機会がないと、時間の感覚がなくなるほど集中してしまう。水も飲まず、ご飯も食べずに何時間も仕事をしたり、本を読んだりしてしまって、フラフラになることがあります」
近年、耳にする機会が増えた「大人の発達障害」。発達障害とは、生まれつきの脳の特性によって日常生活を上手く送れない状態を指し、大きくはADHD、ASD(自閉症スペクトラム障害)、LD(学習障害)の3つに分けられる。かつては子どもの特性と捉えられていたが、近年では大人になってから診断を受ける人が増えている。
青山会関内クリニックの精神科医・石井辰弥氏はこう指摘する。
「発達障害の特性を持つ人が増えたわけではなく、発達障害の認知度が高まり、『自分もそうなんじゃないか』と気づく人が増えたんです。さらに発達障害傾向のある“グレーゾーン”も入れて、診断される人数が増えています。生きづらさの原因が発達障害にあることを知って、楽になる人が多い印象です」
小島さんは40歳を過ぎて「軽度のADHD」と診断された。彼女も戸惑いよりも「なるほどね」と納得する気持ちが強かったという。
「子どもの頃から、いつも自分は“規格外”だと感じていました。ADHDの特徴のひとつに『衝動性』があげられるのですが、思いついたことを空気を読まずにパッと発言してしまう。その結果、場をしらけさせたり、友人を傷つけてしまったり。他にも、大人になってからは事務処理が苦手で、大事な書類なぜか目の前から消えてしまうことも。さっき見たのになぜ?と、魔法にかけられたような感覚です」(小島さん)
なんとか改善しようと、コミニュケーションの上手な人を真似したり、なくし物を減らすために部屋中を完璧に整頓するなど、必死に努力を重ねてきた。
「それでも、期限に間に合わせるとかミスせずに書類に記入するとかいう当たり前のごとが、なかなか上手にできない。『自分はなんてダメ人間なんだ』『生きている価値なんてない』と自己肯定感が下がり、不安障害や摂食障害になったこともありました」(小島さん)