「やーい、デブ!」、「そんなに食べたらまた太るよ!」。現在、プラスサイズモデルとして活躍する吉野なおさん(35才)は、物心ついた頃からそう言われ続けた。
「子供の頃から、自分の体形にコンプレックスがありました。クラスメートだけでなく、担任の先生に非難されたこともあった。一つひとつは小さなことでも、積み重なって心に刺さっていました」(吉野さん・以下同)
高校生のとき、好きだった男性から「やせたらつきあってあげる」と言われて、厳しいダイエットを始めた。
「炭水化物は一切口にせず、ゼロカロリーのゼリーやジュースを飲み、1日最低1万歩のウオーキング。彼とつきあい始めてからも、『なんで食べてるの?』『またデブに戻るつもり?』と言われ続けた。生活の中心がダイエットになり、最終的に30kgもやせてしまいました」
高校を卒業すると、職場で「脚が細くてきれいだね」とほめられた。過剰なダイエットによる体調不良が続いていた吉野さんは、その言葉に喜ぶどころか、「やっぱり私はやせていないとダメなんだ」と、やせ信仰の重圧を感じたという。その後、19才で過食症を発症した。
「不安を解消するために大量に食べては体調を崩すのを繰り返し、仕事に行けなくなるほど体調を崩すことも、一度や二度ではありませんでした。“自分はやせていないと愛されない”という、呪いにも似た強迫観念が染みついていたので、ものを食べる自分のことが何より許せなかった。でも、その苦痛を解消する方法を、食べること以外に知らないのです。そんな矛盾だらけの状態で、次第に心を病んでいきました」
長い苦悩は26才まで続いたが、職場で芸能人のプロフィール写真を整理する作業をしていたとき、転機が訪れたという。
「何千人もの写真を見ていて、やせていても太っていても、誰もが笑顔で写っていることに気づいた。“もしかして、太っていても幸せな人もいるのかな”と思ったんです。それから、体重や体形に執着することに疑問を持ち始めました。やせたいという気持ちを捨てて自分に向き合うと、大量に食べなくても満足できた。体重を落とす以外のことに喜びを感じられるようになり、食事も、心も落ち着いていったんです」
そうして、やせ信仰を捨てた吉野さんは、縁あってプラスサイズ女性向けのファッション誌のモデルとしてスカウトされた。ゆがんだやせ信仰から解放された途端、人生が動き出したのだ。
※女性セブン2021年6月3日号