東京五輪の中止は決断できず、緊急事態宣言は後手後手、その挙げ句、高齢者のワクチン接種を「7月末までに終わらせろ」と現場に無理難題を命じて混乱させる。国民ばかりか、周囲の役人からも「暗愚だよね」と呆れられているのが菅義偉・首相だ。内閣支持率はついに32%(時事通信)まで急落した。
もはや菅首相に積極的に解散に打って出る力はなく、五輪があってもなくても衆院議員の任期満了(今年10月)目前の9月の“追い込まれ解散”になると与野党の見方は一致している。
「これではどうあがいても菅は負ける」と、自民党大臣経験者は悲愴な覚悟だ。
過去、自民党は任期満了1年以内の“追い込まれ解散”で勝ったことがない。森喜朗内閣の「神の国」解散(2000年)では過半数割れ、麻生太郎内閣は総選挙に大惨敗して退陣(2009年)、下野に追い込まれた。次の政権をめぐって自民党内が風雲急を告げるのは当然なのだ。
しかし、有力候補とされる加藤勝信・官房長官、西村康稔・経済再生相、茂木敏充・外相らはコロナ対応の失敗で全滅。党内の“期待”が高かった河野太郎・ワクチン担当相も接種の混乱で「僕の失敗です」と陳謝した。国難に立ち向かえる人材は払底している。
そこで自民党で浮上しているのが“まさか”の安倍晋三・前首相の再々登板説だ。
国民からみれば、安倍氏はコロナの感染拡大で国民が苦しんでいる時に持病の悪化で政権を投げ出した人物。退陣後はすぐ元気になって議連の会長や顧問に就任し、積極的に時局講演するなど政治活動を再開しているとはいえ、国難での再々登板には“この人で大丈夫か”という不安がつきまとう。
第一、安倍氏はBSフジの番組(5月3日放送)で「当然、菅首相が継続して首相の職を続けるべきだと思う」と菅続投支持を表明したばかりだ。
しかし、自民党内の安倍支持勢力の中には、ポスト菅で新首相に世代交代されるより、安倍政権のほうが“またおいしいポストにありつける”と歓迎する声が少なくない。
「安倍さんは常々、『菅さんは僕の残り任期を務めてくれているリリーフなのだから、当然、任期中は支える責任がある』と言っている。菅降ろしが起きても、本来は安倍さんの総裁任期だった9月までは守るつもり。安倍支持勢力からカムバックを求める声があることは本人も承知しているが、仮に、動くことがあるとすれば9月以降になるはずです」(安倍側近)
安倍氏本人も再々登板コールに満更でもないようだ。
インスタグラムで宮崎産の完熟マンゴーを上機嫌で食べる写真を公開して〈もちろんジューシー。さすが日本が誇る最高級品です〉と書き込んだ。かと思うと、朝日新聞社のニュースサイト「AERA dot.」と毎日新聞が架空の接種券番号で予約ができるか検証取材し、政府のワクチン大規模接種の予約システムの欠陥を報じたことに、実弟の岸信夫・防衛相が「悪質な行為」と非難すると、安倍氏も便乗してツイッターで〈朝日、毎日は極めて悪質な妨害愉快犯といえる〉とお得意の朝日批判を展開するなどテンションが上がりっぱなしだ。
※週刊ポスト2021年6月4日号