【著者インタビュー】増田薫氏/『いつか中華屋でチャーハンを』/スタンド・ブックス/1760円
【本の内容】
グルメ漫画エッセイが全15話。各編のタイトルからして読ませる。第1話の「大阪のあんかけカツ丼」から「あなたの知らない中華うどんの世界」「広島の天津飯あんかけ多すぎ問題」「福岡の魔改造中華料理?『ダル麺』を追え!」「神戸中華の隠れ定番?『シチュー』とは」「野方ホープのチャーハン」などなど。東へ西へ、ここまでやる!? と惚れ惚れするほどの時間と手間をかけ、食べて歩いてわかった美味しさの裏表を描く。
「同じメニューを食べ続けるのは苦ではない」
ふしぎなタイトルだ。逆に、なぜ中華屋でチャーハンを食べないのか気になる。
答えは増田さんがつくった独自のルールにある。もともと中華屋では定番メニューを食べていた増田さんだが、知人の「中華屋のカレーって気になる」という言葉がきっかけで、中華屋のカレーを、次いでオムライスばかりを食べるようになり、定番ではない中華のメニューの面白さに目をひらかされたという。
この本は、日本独特の、中華の非定番メニューを食べ歩いたグルメ漫画エッセイであり、たぶん類書がない。
実は増田さん、本のもとになったウェブ連載で初めて漫画を描いたのだそう。
「自分たちがやっているソウルバンド『思い出野郎Aチーム』のZINE(自主制作の出版物)であまったページに適当に描いたことはあったんですけど、きちんとした漫画は初めてです。ツイッターに中華屋でオムライスを食べるたびに写真をあげていたら、ウェブメディアで編集の仕事に就いた大学の後輩が、『あれ、漫画にして連載しませんか?』と言ってくれて。後輩も、ZINEEを見て、まあ描けるんじゃないかと思ったみたいです」
漫画は初めてといっても、増田さんは美大出身のデザイナーで、絵画教室の先生でもある。細部まで描きこまれた料理画のクオリティーは圧倒的で、極端にシンプルな線で描かれた人物との対比が面白い。
「全部をがんばるより、料理の絵だけがんばれば、あとは見逃してくれるんじゃないかと(笑い)。小さいころから『クッキングパパ』が好きで、あの漫画も、キャラクターは割と単純な線で描かれてるけど、料理が出てくるときの、ばーんって感じがすごい面白かったので、そういう感じにしたいなって」
ソウルバンドのツアーで訪れる土地に気になっている中華があれば、夜行バスでひとり前乗りし、はしごして食べ歩いた。ハイカロリー食を続けて食べることも辞さない。時間と手間がかかっているのがわかる仕事だ。
「同じメニューを食べ続けるのは、取材だったらぜんぜん苦になりません。単純に、それまで漫画を描いてお金をもらう経験がなかったし、自分は中華の専門家でもないので、それなりにがんばらないと、漫画として読んでもらえるクオリティーにならないんじゃないかと思ったんで」