現代は、家族・親族の数も減り、親戚づきあいも希薄になっている。老境を迎え、自分の死後にどうやって弔われるのがいいか悩む人は多い。残される家族、子供に負担をかけたくないからと、墓に入らず散骨を希望するケースも増えているが、必ずしもそれが遺族の希望に沿うとは限らない。家族に相談せずに散骨を決めてしまうと、それがきっかけで一族の不和を招くこともあるから注意が必要だ。
Aさんは、自分の死後に子供たちが苦労しなくていいようにと、エンディングノートを残していた。そこには「遺骨は海洋散骨してもらいたい」と書かれていたため、Aさんの死後、子供たちはその遺志を叶えようとした。ところが、それを知った親戚たちが猛反対。「田舎に先祖代々の墓がある。なぜそこに入れないのか」「故人を捨てるつもりなのか」「海に撒いて、一体どこにお参りに行けばいいのか」と集中砲火を浴び、結局押し切られて田舎に墓を建てることになった。予定外の出費になったのはもちろん、この件がきっかけで親戚とはますます疎遠になってしまったため、子供たちは墓参りのためだけに東京から地方まで出かけ、親戚を頼ることもできず、毎回日帰りの強行日程を余儀なくされている。
このようなケースは少なくない。子供が納得していても、親戚が反対することもある。エンディングノートがあったAさんのケースでさえそうなのだから、親戚が故人の遺志を確認できないような場合は、ますます子供や家族が疑惑の目で見られてしまう。社会福祉士で葬送・終活支援ソーシャルワーカーの吉川美津子氏に、Aさんはどうすれば良かったのか聞いた。
「まず、Aさんはなぜ海洋散骨を希望したのか、その理由もきちんと伝えておくべきでしたをきちんとエンディングノートで伝えておくべきでしたね。最近は、私も海洋散骨を希望する方や、散骨されたご家族からお話をうかがうことが増えています。ご自身が希望する場合、たとえば『この海でダイビングするのが趣味だったから』とか、『漁師として人生を過ごした場所だから』といった、誰もが納得できるわかりやすい理由があれば親戚親族の理解も得やすいのですが、そういったケースは多くありません。
実際に散骨を希望される方は、お墓を購入することの金銭的な負担を気にしていることが多いですね。子供たちに少しでも多く財産を残してあげたいから墓はいらないとか、墓を管理する負担が大変だろうと、消去法で散骨を選ぶ方が多いと感じます。しかし、そうした理由では親戚親族はもちろん、子供たちも簡単には納得できません」