新型コロナウイルスの感染拡大はなかなか収束に向かわず、外出しにくい状況が続くいま。このステイホーム期間を読書に費やすのもいいだろう。注目の新刊4冊を紹介する。
『いつか あなたを わすれても』/桜木紫乃・文、オザワミカ・絵/集英社/1870円
各登場人物の視点から家族の仕舞い時を描いて評判になった『家族じまい』。著者にとって初の絵本になる本書は、その余滴とでも言うべきもので、小説では話者にならなかった孫娘の視点から、誕生~成長~成熟~老い~忘却と、世代と世代を繋ぐ“じゅんばん”を描く。さとちゃんの思い出を荷造りするママ、荷を下ろしながら忘却の河を渡るさとちゃん。絵も美しい大人の絵本。
『臨床の砦』/夏川草介/小学館/1650円
主人公は感染症指定病院でコロナ診療最前線に立つ敷島医師。年明け第3波、緊急事態宣言下の病院が舞台だ。発熱外来の混雑、手間のかかるiPad診療、保健所からのひっきりなしの電話やクラスター発生の報。地獄図のような医療従事者の命がけの奮闘の一方で、最期のお別れもできない患者家族の悲嘆がある。力のある小説は今を伝えてノンフィクションに匹敵すると痛感する。
『16歳からの相対性理論 アインシュタインに挑む夏休み』/佐宮圭・著、松浦壮・監修/ちくまプリマー新書/968円
ベロ出しアインシュタインがどんなに愛嬌あるおじいちゃんでも、彼の相対性理論を理解しようなんてムリ。と思いつつ、主人公で高1の数馬の素直さと、母親には内緒の父親とのデート(お喋り相対性理論入門)、科学部の個性的な面々とのやりとりなどが面白くてクィクィ読んでしまう。数馬は科学部を廃部の危機から救えるか。宇宙誕生の謎を解く重力波の続報も待ち遠しい。
『にぎやかな落日』/朝倉かすみ/光文社/1760円
愛称「おもちさん」こと、島谷もち子、83才。夫の勇さんは3年前に特養に入所、息子の嫁トモちゃんは優しく、東京の娘は日に2度電話をくれる。でも持病があって、食事と医療スタッフ付きのマンションに入居することに。独居の老母は何思う? 遠く離れて暮らす娘達の気持ちを癒やしてくれる老境小説。自分の母がおもちさんのようであってほしいと、きっと誰もが願うはず。
※女性セブン2021年6月10日号