誰にでも訪れる「最期の時」。その瞬間をどこで迎えるかということは大きな問題だ。たとえば、死を間近にした高齢者が自宅で倒れるケースでは、救急搬送のための119番が不幸な結果を招くことがある。
『日本のいちばん長い日』などの著書がある作家の半藤一利さん(享年90)は今年1月、自宅で妻とおしゃべりをしたのちに倒れた。
「数日前から歩行困難になり、本人が死期を悟っていたことなどから、倒れた半藤さんを見つけた奥さんは、かかりつけ医に連絡。駆けつけた医師が老衰による死亡を確認しました」(出版社関係者)
在宅医療にかかわる長尾クリニック院長の長尾和宏医師は「救急車でなくかかりつけ医を呼んだのは実に賢明な判断」と指摘する。
「救急車を呼んでいたら、『心肺停止をみたら蘇生』を義務とする救急隊員が延命処置を施したでしょう。その場合、入院して意識が戻らないまま管だらけで、その果てには延命治療となり、病院でたったひとり幸福とはいえない最期を迎えるケースもあります」
病院に入院せず、自宅で最期を迎えるためには、日頃から体を鍛えておくことも肝要だ。脚本家の橋田壽賀子さん(2021年4月逝去、享年95)さんは83才から週3回、1回1時間のトレーニングを欠かさなかった。橋田さんが83才のときから12年間パーソナルトレーナーを務めた八代直也さんが語る。
「30分はひざや股関節などの関節をほぐすコンディショニングを行い、後半はバランスボールやバーベルを用いたトレーニングでした。橋田先生は90代になっても20kgの錘を持ってスクワットをして、『最後まで自分の足で歩いて、人に迷惑をかけたくない』とよく仰っていました」(八代さん)
年齢を重ねても体力を維持すれば、ピンピンコロリに近い死に方ができるという。
「老衰で亡くなるかたでも、死の2週間前まで体力があり、普通に外出してゲートボールをしたり、自転車に乗っていたというケースが多いんです。多くの場合、そこから2週間で一気に弱って自然に枯れるように亡くなる。つまり、老衰で亡くなる場合でも、それなりに体力を保てれば、“準ピンピンコロリ”で逝くことができます」(長尾さん)
振り返れば、田村正和さん(2021年4月逝去、享年77)も、渡哲也さん(2020年8月逝去、享年78)も、橋田さんも、生前から「理想の死に方」を周囲に語っていた。
「大切なのは、自分がどのような最期を迎えたいのかを、普段から身近な人と話し合っておくことです。特にコロナ禍では入院すると家族と会えず、苦しい死を迎えるリスクがある。どうすれば幸せな死に方ができるかをよく考えて、しっかり対話をしてほしい」(長尾さん)
先人たちが身をもって示した理想の逝き方から、多くのことを学べるはずだ。
※女性セブン2021年6月10日号