元横綱・稀勢の里(現・荒磯親方)が、いよいよ自分の部屋を開く。相撲協会は理事会で8月1日付での独立を承認。「荒磯部屋」は出身地である茨城県牛久市に近い阿見町に建てられる予定だ。序ノ口と序二段の力士4人と、行司1人を連れてのスタートとなる。
「荒磯親方は早稲田大学大学院スポーツ科学研究科の修士課程に入学し、“新しい相撲部屋経営の在り方”をテーマに修士論文を出した。論文では『部屋に土俵を複数設ける』『稽古場にビデオカメラを入れる』『(角界の慣習である)1日2食を3食に変える』といった改革案を披露しており、本人は“大学院で学んだことを生かしたい”と意気込んでいる」(担当記者)
新しい部屋の最寄り駅はJR常磐線の「ひたち野うしく」駅で、両国まで1時間以上かかるが、「2面の土俵を作るなど、広い敷地の確保には都内では地価が高すぎた」(同前)のだとみられている。
NHK中継で饒舌な解説を披露する理論派だけに、弟子の育成に期待がかかるが、ある親方は「土俵を2面にするなんて奇抜なやり方で、うまくいくのか」と疑問を呈す。
たしかに、かつて50人の力士を抱えた二子山親方(元大関・貴ノ花)も本誌・週刊ポストの取材に「土俵が2つだと集中力が欠けて稽古が散漫になる。先輩の相撲を見るのも稽古のうち。力士が多くて稽古時間がないなら、夜中から始めればいい」と語っていた。また、別の若手親方は、「以前、起床後に牛乳とバナナを食べてから朝稽古をさせた部屋があったが、激しいぶつかり稽古ですぐに戻してしまう。あと、少しでも太るためにはやはり1日2食がベストだ」と話した。
さらに、独自の試みを実行するために選んだ「立地」への懸念もある。
「国技館に近い両国界隈に部屋を構えることで、多くの出稽古が可能になり、力士は育つ。茨城のつくばみらい市にあった立浪部屋も、明生や豊昇龍といった有望な力士が出てきたから、出稽古ができるように台東区に移転する。元大関・雅山の二子山部屋も所沢市から葛飾区に移転したばかり。本場所中の移動の負担もあるし、デメリットのほうが多い立地ではないか」(ベテラン記者)
注目されるのは人気者の宿命。角界の常識をどこまでひっくり返せるか。
※週刊ポスト2021年6月18・25日号