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徳川慶喜 なぜ「臆病者の逆賊」と呼ばれるようになったのか

徳川慶喜はどんな人だった?(写真=akg-images/AFLO)

徳川慶喜はどんな人だった?(写真=akg-images/AFLO)

 放送中のNHK大河ドラマ『青天を衝け』で草なぎ剛が好演する徳川慶喜。江戸から明治という難しい時代の転換点の舵取りをした英傑である一方で、実は長らく彼は「臆病者」という誹りを受けた、評価の分かれる人物だった。なぜ臆病者と言われるようになったのか、歴史をたどろう。

 生まれた年に飢饉を背景にした幕府への反乱「大塩平八郎の乱」が発生。数え17歳の年に黒船が来航。徳川慶喜は日本社会が大転換を迎えるそんな「内憂外患」の時代に生まれた。

 彼が育った水戸藩には、「水戸黄門」として知られる第2代藩主・水戸光圀が歴代天皇の歴史を記した『大日本史』の編纂を始めて以来「尊皇」の伝統があり、とりわけ高いカリスマ性を持つ父・斉昭は強硬な尊皇攘夷主義者だった。しかも母は有栖川宮家の出で、天皇とも血が繋がる。そのため彼は「生まれながらにして尊皇家であることを運命づけられていた」(歴史学者・家近良樹氏)。

 英邁との評判を聞いた第12代将軍・家慶の意向もあって、数え11歳で一橋徳川家を継ぎ、やがて政治の舞台へ躍り出る。周囲の大きな期待を一身に背負い、激動の時代の舵取りを託されたが、ある事件を境にその評価が一変することとなる。

 慶応4年(1868年)1月3日、京都南郊の鳥羽で旧幕府軍に薩摩藩兵が攻撃を仕掛け「鳥羽・伏見の戦い」が勃発した。両者の戦いは伏見などでも行なわれ、薩摩側が圧倒。すると事態は急展開し、翌4日、嘉彰親王が旧幕側に対する征討大将軍に任命され、錦の御旗を与えられた。旧幕側は「逆賊」「朝敵」となったのだ。

 そのことを大坂城で知った徳川慶喜は、将兵らに徹底抗戦を説きながら、6日深夜に老中らごく一部の者だけを伴い、軍艦で江戸へ向かった。慶喜の「敵前逃亡」を聞いた旧幕軍は戦意喪失して総崩れ。江戸に着いた慶喜は隠居の意思を表明し、2月12日には江戸城を出て上野寛永寺で謹慎生活に入ってしまった……。

「この『逃亡』によって慶喜は、旧幕臣のみならず一般の民衆からも『臆病者』『意気地なし』『卑怯者』と罵倒され、後世の不人気が決定づけられました。幕末史上最大の敵役となったのです」(前出・家近氏)

 翌年、戊辰戦争が終結し、世の中が本格的に新時代に向けて走り始めると、公職を含め一切の仕事に就かなかった慶喜の存在は次第に社会の中で小さくなっていき、負のイメージだけが残った。幕末維新という日本史の大転換期の一番の主役でありながら、慶喜はその後100年以上もの長きにわたって不人気が続いた。

 時計の針を戻す。

 開国か攘夷かを巡って国内が対立して大混乱になり、徳川支配体制が崩壊に向けて雪崩を打っていた慶応3年(1867年)10月、15代将軍慶喜は政権を朝廷に返上する大政奉還を行なった。慶喜は「天皇を中心とする中央集権国家を樹立し、自分は一大名として支えるつもりでいた。イギリス型の議会政治の導入も視野に入れていた」(前出・家近氏)という。家康以来の徳川政権に、他ならぬ将軍自身の手で終止符を打つという大胆さ、潔さ。慶喜への評価が高まり、慶喜の新政府入りも確実視された。

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