今年3月に静岡、山梨、神奈川の3県などでつくる富士山火山防災対策協議会は富士山噴火のハザードマップを改定した。改定では、溶岩の噴出量予測を2倍に引き上げるなど、噴火規模の拡大が想定された。
過去、山梨側で発生した最も大規模な噴火が、864~866年に起きた貞観噴火だ。山梨県鳴沢村に位置する長尾山から13億平方メートルの溶岩が流れ出したと考えられている。青木ヶ原樹海は、この際の溶岩の上にできた森林地帯である。山梨側から見た富士山は文豪・太宰治や井伏鱒二が愛したことでも知られる。太宰は、富士河口湖町の茶屋に滞在して『富嶽百景』を描いた。
河口湖をはじめとする富士五湖は現在でも観光地として名高い名所だが、山梨側の側火口から噴火した場合、富士五湖にも溶岩が達し、湖の形が変わる可能性がある。他にも、富士急ハイランドや富士スバルライン、中央自動車道も溶岩に埋め尽くされるかもしれない。火山学の権威で京都大学名誉教授の鎌田浩毅氏はこう話す。
「ハザードマップは、溶岩がさらに遠くまで流れれば、最終的に神奈川県相模原市まで到達する可能性があるとしています」
静岡側と山梨側が同時に噴火する可能性も
東海道新幹線に乗り、三島駅付近から富士山を眺めると、7合目あたりの山体に大きなヘコミを確認できる。1707年の大噴火で大量の火山灰を噴き出した「宝永火口」である。JR三島駅北口を出て左手にあるバスターミナル付近には、1万1000年前に噴出した三島溶岩(厚さ3mほど)が現在も残っている。これから起こる噴火で、宝永火口をはじめ静岡側から溶岩が噴き出した場合、溶岩が富士市や御殿場市などで東名高速、新東名高速を寸断し、三島駅付近などで東海道新幹線の線路を飲み込む可能性がある。
「噴火後は広範囲にわたって火山灰が降り積もり、飛行機などの空路での移動は不可能になります。さらに新幹線と高速道路という“東西の大動脈”が完全に断たれてしまう」(鎌田氏)
溶岩は噴火から2時間以内に御殿場市、富士市、富士宮市を襲い、最大で駿河湾まで流れる可能性もある。
製図/タナカデザイン
※週刊ポスト2021年6月18・25日号