音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、来年3月に真打ち昇進が決まった春風亭ぴっかり☆についてお届けする。
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春風亭ぴっかり☆が来年3月に真打昇進することが決まった。落語協会が5月1日に正式発表したもので、三遊亭美るく、鈴々舎八ゑ馬、林家はな平と同時の昇進となる。
キュートなルックスでアイドル的な人気が出たことが却って正当な評価を妨げているきらいがあるが、近年のぴっかり☆の成長ぶりは著しい。明るく楽しい高座が本来の持ち味だが、昨年末に聴いた大ネタ人情噺『たちきり』も見事で、若旦那が小久の位牌と対面する場面では女性演者である強みが芸者置屋の女将の台詞の説得力に結びつき、若旦那の純粋さを表現する真っ直ぐな演技と相まって、大いに引き込まれた。
なかの芸能小劇場で4月26日に開かれた独演会「ぴっかり☆春一番!」では『任侠流山動物園』と『お見立て』の2席を観た。『任侠流山動物園』は三遊亭白鳥作。渡世ブタの豚次が男を磨く「流れの豚次伝」シリーズ全10話の原点となった噺で、ぴっかり☆が無類の任侠映画好きだと知った白鳥に勧められて持ちネタにしたのだという。
さびれた流山動物園に客を呼ぶため豚次はかつて世話になった上野動物園の親分、パンダのパン太郎に力を貸してほしいと頼むが、トラに尻の肉を食いちぎられた挙句に放り出される。そこで豚次は園長に相談、牛の牛太郎、ニワトリのチャボ子と共に人間の言葉を覚えると、これが大人気。
客を取られた恨みでパン太郎親分がトラと共に殴り込みをかけてくるのがクライマックスで、白鳥の原作ではここでゴリ長一家で大政と呼ばれて恐れられたアフリカ象の政五郎が立ち上がるが、緋牡丹博徒シリーズをこよなく愛するぴっかり☆はこれをメス象の“緋牡丹のお政”に変えて演じている。