中国の習近平国家主席は、5月7日、IOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長との電話協議で、東京五輪開催を支持すると表明した。その後も、五輪報道のために3000人規模の報道スタッフを派遣する方針を発表するなど、五輪参加自体を見送る国も出ているなかで、中国の前のめりの姿勢が際立っている。
これまでの対日強硬路線からうってかわって、まるで中国が日本政府の五輪開催路線を支持しているかのようにみえるが、拓殖大学海外事情研究所の富坂聰教授は「日本のことを思ってではなく、中国の事情によるものです」と語る。
「東京五輪の開催を支持するのは、来年2月の北京冬季五輪をつつがなく開催したいから。もし東京五輪が中止になれば、世界各国がコロナのリスクを過度にとらえ、来年の北京冬季五輪の開催に黄信号が灯りかねない」
北京五輪の開催が危ぶまれるのは、コロナリスクだけが理由ではない。富坂氏が続ける。
「中国は新彊ウイグル地区での人権問題が各国から非難されていて、米国が北京五輪ボイコットをちらつかせている状況です。最悪、IOCが中止の判断をする可能性もある。
これまで五輪は、戦争以外の理由で中止になったケースはなく、東京五輪が中止になるとその前例ができてしまうので、中国としては避けたい。対米関係の悪化から五輪を“外交カード”に利用しようとする米国に対し、中国は東京五輪の開催を支持することで、政治と五輪を切り離すイメージ作りを狙っている。東京五輪支持を示しているのも日本政府に対して、米中関係には“部外者”でいろというメッセージを込めているのでしょう」
“スポーツを通した人間育成と世界平和”が目的であるはずの五輪は、国際政治の駆け引きに使われるだけの存在になってしまったようだ。