幼い頃からの「夢の舞台」にやっと手が届いたところだった。東京五輪開幕を1か月半後に控えて、突然、「うつ病」を告白し、表舞台から姿を消した大坂なおみ(23才)。現時点(6月16日)では、ツイッターやインスタグラムで五輪に関する発言はない。憧れの場所は、いつの間にか、彼女の心の大きな負担になっていた──。
大坂選手が全仏オープンの記者会見を拒否したのは5月30日。その理由について「何度も同じ質問をされる」「疑念を抱かせるような質問をされる」と訴えた。会見拒否の後、大坂選手はツイッターでこう語っている。
「私は人前で話をするのが得意ではなく、世界中のメディアを前にして大きな不安に襲われます。とても緊張し、いつもできる限り人々の心を掴む話をしなければならないとストレスを感じてきました」
大坂選手は人種問題や女性差別など、彼女の考えを、彼女なりに語り、行動に移してきた。スポーツライターの山口奈緒美さんはいう。
「最近の大坂選手は『Black Lives Matter(BLM)』のような人種問題や、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗前会長(83才)の女性蔑視発言について問題提起し、発信力が強くなっていた。それだけにメディアは彼女に“オピニオン・リーダー的な振る舞い”を求めすぎたのかもしれない。自分たちで言えないことを、大坂選手に言わせて“代弁”させるような雰囲気もあったように感じます」
もちろん大坂選手自身がさまざまな社会問題に関心を持ち、よかれと思って行動してきたところはあるだろう。ただ、東京五輪の開催是非だけでなく、メディアはさまざまなテーマを大坂選手に“語らせよう”としてきたのも事実だ。
しかしその一方で、大会の主催者やスポンサー、テニス団体の関係者らの一部には、「テニス以外の余計なことを言うな、するな」という声があったのもたしかだ。
「大坂選手にも、“テニスに集中した方がいい”とか、“余計なことに口を出すから試合に負ける”などと批判めいたことを言う人も少なからずいました。メディアに求められるものとの“板挟み”でも大坂選手は悩んでいた」(大坂選手をよく知る関係者)
五輪の開催国である日本のテニス関係者も、大坂選手の「意見表明」には不安を抱えていたという。
「五輪で日本代表選手をサポートする日本テニス協会は、大坂選手とうまくコミュニケーションが取れていないと聞きます。今回のうつ病公表もそうですが、大坂選手は繊細なところがある。本当に気を許したスタッフにしか心を開かないそうです。
大坂選手の意図を測りかねている協会の一部では、活発に意見表明をする大坂選手に“五輪中止については触れてほしくない”“東京五輪ではテニス以外で目立つパフォーマンスは控えてほしい”と心配しているといいます。
夢にまで見た東京五輪でも、自分らしい主張のことで板挟みになり、大坂選手は大きく落胆したのではないでしょうか」(前出・大坂選手をよく知る関係者)
「そもそも、スポーツ選手が何について語るかはその選手が決めることだ」とスポーツ文化評論家の玉木正之さんは指摘する。
「スポーツ選手だから社会問題を語ってはいけないと考えること自体がおかしなことです。スポーツ選手だって人間なんです。それなのに、大坂選手に執拗にコメントを求めて“よくぞ言った”と賛辞を贈ったり、逆に“なんでそんなことを言うのか”と批判したり、過剰に反応することで、大坂選手の人間性や考えが置き去りにされているように感じます」
私はどう答えればいいのか──コロナ禍という不運に見舞われたこともあるが、憧れの東京五輪が大坂選手の心を壊してしまったのかもしれない。
※女性セブン2021年7月1・8日号