6月13日に閉幕したG7(主要7か国首脳会議)の共同声明では、台湾や新疆ウイグルをめぐる問題が列挙され、「中国への懸念」が表明された。まさに時を同じくして、それが的中する事態が起きていた。
米CNNは6月14日、中国広東省の台山原発で放射性物質漏れが起き、周辺地域の放射線量が高まっている恐れがあるとして、アメリカ政府が調査していると報じた。建設と運転に協力するフランスの原子炉製造会社「フラマトム」が技術協力を求めたという。
中国外務省の報道官は6月15日になって会見で、「原発周辺の放射線量に異常は見られていない」と説明したが、そのまま鵜呑みにしていいのだろうか。原子炉工学が専門の奈良林直・東京工業大学特任教授は、こう懸念する。
「報道から想像するに、炉心で燃料ペレットが核分裂する際、燃料損傷が起きて想定を超える希ガスが発生し、体積制御タンクから放出されたのではないかと考えられます。希ガスにはキセノン133やクリプトン85といった放射性物質が含まれており、これによって周辺地域の空間線量が高まったのでしょう。
たとえば福島第一原発の処理水にはトリチウムなどの放射性物質が含まれていますが、その海流放出は基準に従い管理された状態で行なわれているのに対して、台山原発は想定している放射線量を超えている。危険度は当然こちらのほうがはるかに高いと考えるべきです」
折しもこの4月、中国外務省は福島第一原発の処理水海洋放出に「極めて無責任」と非難してきたばかりだが、中国の場合、無責任どころの話ではない。
「報道によると、中国の安全規制当局は、運転停止を回避するために台山原発周辺の放射線量の許容限度を引き上げたという。それをもって“基準内だ”とする説明であれば、中国当局の対応は確信犯である可能性があります。
建設・運転に協力するフラマトムは公表しなくてはならないと思っていたはずが、中国当局が止めていたのでしょう。それでアメリカを通じて公表させたというのが真相ではないか」(同前)
新型コロナの初期対応にも似ているが、このまま中国の発表を信じて対応を任せることがいかに危険か、すでに国際社会は身をもって知っている。
※週刊ポスト2021年7月2日号