雨や雪など自然の描写と名所を組み合わせることで、人々の共感を呼ぶ作品を次々に生み出した江戸時代の浮世絵師、歌川広重。彼の作品に描かれた名所を行けば、梅雨の街も粋な絶景になる。代表作のひとつ『名所江戸百景』は、それまで知られていなかった江戸の新たな名所を掘り起こした、初代歌川広重の意欲的な作品。
1857年(安政4)年の『名所江戸百景 大はしあたけの夕立』は、隅田川にかかる大きな橋「大はし」を空から見下ろすという斬新な構図で、左上の対岸には「あたけ」と呼ばれる軍船などを格納する幕府の軍事施設が描かれており、はっきりとしないよう白くぼかしている。激しい雨に慌てふためく人々と、ゆったりと進む船の様子が対比として描かれた。
「当時、絵画に雨を描くのは世界的にも珍しく、ゴッホが模写したことで広く知られる名作です」(岡田美術館・小林忠館長)
この浮世絵に描かれた「大はし」とは、現在の「新大橋」のこと。江戸時代は現在よりも下流に位置していた。
※週刊ポスト2021年7月2日号