浮世絵に描かれた名所をゆく、歴史探訪東京さんぽ。今回は、風景版画が流行した時代に活躍した浮世絵師のひとり、多くの江戸の風景を描いた絵師・歌川国芳の描いた隅田川を散歩しよう。『東都御厩川岸之図』(天保年間〈1831~1845年〉初期)では、雨を垂直に描いて、突然降り出した夕方の土砂降りの中を人々が往来する様子が描かれている。
「現在の東京でも見られる、夏の夕立を描いたものです。雨のしぶきが地面で激しく跳ね返っており、これほど雨を強調して描くのは、他の作品にはあまり見られないものです」(岡田美術館・小林忠館長)
防衛上の理由から当時の隅田川の架橋は数が制限されていたため、渡し船によって対岸へ渡っていた。「御厩川岸」はそのうちのひとつ。絵にある人々の持つ傘に描かれた「ト」の字に似た意匠は、浮世絵の版元である山口屋の商標である。
隅田川を浮世絵の構図どおりにのぞむと、背中側に両国国技館、関東大震災や東京大空襲のメモリアルパーク・都立横網町公園内に建つ東京都慰霊堂がある。設計は建築家・伊東忠太。
※週刊ポスト2021年7月2日号