ホテルやサウナ、スポーツクラブなどにもアメニティーグッズとして綿棒が置かれていることもあり、風呂上がりに綿棒で耳そうじをすることが欠かせない人もいるかもしれない。だが、これが命にかかわるケースがあるという。
2019年、英国では、31才の男性が耳そうじのために綿棒を使用し、死に至る脳の感染症にかかったと伝えた。耳かきが原因で意識不明となり、病院に搬送されたというのだ。綿棒のコットンが5年前から耳の奥に詰まっており、そこから細菌が増殖し、脳にまで広がったとみられている。
そんな事故が起こるほど、私たちが耳かきをつい手にしてしまうのには理由がある。
耳の穴には「迷走神経」という神経が通っており、それを刺激すると快感がもたらされるからだ。
ところが、わざわざ耳かきや綿棒を使ってそうじをする必要はないと、耳鼻咽喉科いのうえクリニック院長の井上泰宏さんは言う。
「耳あかは耳の皮膚を保護する役割があり、それによって細菌の侵入を防いでいます。無理に取る必要はないのです。また、耳には、耳あかを自動的に外に出す自浄作用が備わっているため、体質にもよりますが、通常は意識的にそうじする必要性はありません。米国耳鼻咽喉科研究学会も『耳そうじは一般的には不要』としています」
それでも、風呂上がりは耳かきをやらなければ不快感が残ったり、耳かきが「癒し」のひとときという人もいる。残念だが、そんな人は要注意だ。
「耳かきのしすぎで皮膚表面の保護機能が壊れ、細菌が入り込んでしまったことで、ひどい場合は耳の中から耳たぶまで皮膚がただれる人もいます。なかには、頰のあたりまでグジュグジュに赤くただれてしまう人もいます」(井上さん・以下同)
英国で起きたような、耳そうじから死に至るケースも、ごくまれではあるものの、存在するようだ。
「糖尿病患者や免疫抑制剤を使用している人など、免疫機能が低下している人に『悪性外耳道炎』という病気が起こることがあります。緑膿菌やMRSAといった抗生物質の効きにくい細菌が外耳道の骨に入り込み、顔面神経や嚥下に関係する神経などを破壊したり、耳からほど近い場所にある脳まで入り込んで亡くなるというパターンが多いようです。特殊なケースであるとはいえ、治療しても2割の人は亡くなる病気です」