東京オリンピック・パラリンピックが1か月後に迫るなか、アメリカは官民挙げて金メダル奪取オペレーションに動き出した。やると決めたら突っ走るのがヤンキー魂。東京のコロナ危機を見て出場選手(当初の予定では500人強)、コーチ、役員の規模を絞り、メダル獲得を目指した少数精鋭選手団を編成して、日本との往復もチャーター機を飛ばす。お祭りムードはなく、完全にメダル獲得に的を絞った「ガチ」の態勢だ。
選手団の日本滞在は最小限にし、現地で調整が難しいケースも考えて試合直前に東京入り、終了後はただちに帰国する。日本でメダル候補が感染しては元も子もないので、他国選手との接触を避けるために選手村での滞在期間も極力短くするという案が浮上している。G7ではオリンピック開催に賛同を表明したものの、日本側の感染対策を100%信用しているわけではなさそうである。
これまでの夏季五輪で、アメリカは常に金メダル獲得数で世界一を争ってきた。特に第二次世界大戦後の18回の大会では、1位を逃したのは8回だけ。ベスト3に名がないのはボイコットしたモスクワ大会(1980年)のみだ。アメリカが1位でなかった大会では、旧ソ連が7回(旧ソ連各国合同で参加した1992年のバルセロナ大会含む)、中国が1回(2008年の北京大会)、1位に輝いている。旧ソ連が崩壊した後、ロシアは1位を獲得できていないが、近年は中国がアメリカを急追しており、北京大会以降、いずれもアメリカが1位だったロンドン大会(2012年)では2位、リオデジャネイロ大会(2016年)では3位。かねて五輪はアメリカにとって国際社会でのヘゲモニーを示す意味があったが、米中対立が激化する今回の東京大会は、中国に絶対に負けられない政治ゲームになっている。
開催国の日本は「コロナからの復興」を示すには程遠いようだが、他の参加国にとっては、いかにこの1年で国力を回復したかを誇る意味もある。感染者3350万人、死者60万人を出したアメリカも、ようやくワクチン接種が奏功し、いまや世界中にワクチンを提供することで威信を取り戻しつつある。コロナの発生源になりながら、いち早く感染封じ込めに成功し、途上国にワクチン外交を展開する中国を圧倒する力を五輪でも見せつけたいところだ。「コロナ禍の東京五輪成功の一翼を担うことで日米同盟の絆を具現できればいい」(米国務省関係者)といった声も飛び出す。