1990年代前半、樋口可南子を皮切りに、宮沢りえ、島田陽子、石田えり、川島なお美、高岡早紀など、大女優たちが次々とヘアヌード写真集を発売した。「解禁第1号」となった樋口可南子の『water fruit』(1991年)は、篠山紀信氏によれば「モノクロでアートとして撮る分にはかまわないだろう」(朝日新聞2019年4月16日付)と、あくまでもアート写真集の文脈で作られた。
その8か月後、対照的に「ヘアを露出する」ことを意図して作られた写真集が発売された。それが『遠藤正 白熱写真集 日時計 SUNDIAL』だ。『日時計』は写真家・遠藤正氏が1970~80年代に撮りためたヌード写真をまとめた作りになっている。それは竹書房の出版プロデューサー・二見曉氏の発想から生まれた。
二見氏の著書『僕は「ヘア」ヌードの仕掛人』(洋泉社)には『日時計』の制作秘話が綴られている。
「『プレイボーイ』だとか『パンチ』だとか『GORO』だとか、そういうところには『ヘア』が写っているという理由で使えなかった写真がいっぱいあるはずだから、写真家に頼んでそれを拝借してしまおう、と提案したんだ。『隠れた』写真を出してしまうという発想。『ヘア』を出すということはそういうことだったんだよ。つまりゲリラ」
樋口可南子や宮沢りえの写真集とは違い、敢然とヘアを出す、確信犯だった。
逮捕されることも覚悟して発売された『日時計』は、35万部という大ヒットを記録し、当局の動きも警告のみに留まった。アダルトメディア研究家の安田理央氏によれば、「その後のヘアヌード写真集の流れから見れば、『日時計』は元祖的存在」と言えるそうだ。
※週刊ポスト2021年7月2日号