『名所江戸百景 昌平橋聖堂神田川』(1857<安政4>年)は、江戸時代の浮世絵師・歌川広重による『名所江戸百景』に描かれた作品のひとつ。神田川越しに傘を差しながら坂を登る人たちが描かれるが、奥にある森の向こうに、湯島聖堂や幕府による学問所である昌平黌があった。下に描かれている橋が昌平橋だ。浮世絵を頼りに“歴史探訪東京さんぽ”を楽しもう。
広重の浮世絵は、大胆な構図とともに、その美しい「青色」でも欧米で高い人気を集めた。
「川の中央や下部に描かれている藍色のぼかし刷りが、とても美しいですね。これは、ベルリンブルーと呼ばれる色で、錬金術の副産物として生まれた技術を応用してできた色といわれています。ですから、浮世絵師の広重というよりは、色をつける工程を担当する摺師の技といえるかもしれません」(岡田美術館・小林忠館長)
浮世絵を頼りに、現在の昌平橋のたもとからJRお茶の水駅の近くにある湯島聖堂の方角を望むと、神田川の上にはJR総武線の鉄橋が走っている。柳森神社の境内には力石群がある。力石とは若者が力試しに用いた石とされ、この境内にあるのは、付近の力士が使っていたものと伝わる。
※週刊ポスト2021年7月2日号