観光などで人気が高い蒸気機関車(SL)だが、世界が動力エネルギーを石炭に頼っていた時代に多くが製造されていたこともあり、存続や維持をしたくとも現実には難しいことが多い。名古屋市科学館で保存されていたドイツ製のB6 2400形を動かせるようにしようと2016年に調査の目的で移設、分解されたまま倉庫に放置されていたことが明るみに出た。ライターの小川裕夫氏が、全国で取り組まれているSL保存についてレポートする。
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昨年、マンガ『鬼滅の刃』が空前の大ヒットになったことは記憶に新しい。劇場版『鬼滅の刃』無限列車編は日本映画の歴代記録を次々と塗り替えたが、同作にはSLが登場する。JR東日本は「SLぐんま よこかわ」を、JR九州は特別列車「SL鬼滅の刃」を運行。これらは鬼滅とのコラボだが、鬼滅人気は鉄道事業者に大きな福音をもたらした。
なぜなら、昨年は新型コロナウイルスが猛威を奮い、鉄道需要が大幅に減少。テレワークで都市圏の通勤・通学需要が減少しただけではなく、観光客需要はゼロに等しい状態にまで落ち込んだ。通勤需要が小さい地方の鉄道事業者にとって、沿線外から利用客を呼び込める観光列車は頼みの綱。なかでもSLは観光客を全国から集められるキラーコンテンツでもある。
鬼滅ブームでSLが人気を高める一方、各地で保存・展示されているSLはピンチを迎えている。愛知県名古屋市の河村たかし市長はSLへの思い入れが強く、市長就任後の2011年議会で名古屋駅と金城ふ頭駅を結ぶ名古屋臨海高速鉄道あおなみ線にSLを走らせたいと答弁した。2013年には、あおなみ線の一部区間でSL運行を実現させている。
2013年のSL運行はあくまでもイベント的だったこともあり、車両はJR西日本から借りる形で調達した。
しかし、河村市長は定期的なSL運行を望む。そのためには、SLを確保しなければならない。そこで、名古屋市科学館で屋外保存されていたSLに着目。これを修理してあおなみ線で走らせることを希望する。
「当館で保存・展示していたSLは、かつて三重県の石原産業で活躍していたB6というSLです。ドイツ製のB6は大変に珍しい車両で、国内で保存・展示しているのは当館だけです」と説明するのは名古屋市科学館総務課の担当者だ。
現在は大幅に縮小してしまったが、大きな工場や工業地帯では、企業が自社の専用鉄道を敷くことは珍しくなく、車両も保有していた。1968年に廃止されるまで、名古屋市科学館所蔵のB6は化学メーカーの石原産業四日市工場にあった専用線を走っていた。