「料理も音楽も最高! ロック、ファンク、ラテンも流れる、めっちゃ好きな店」(60代、内装業)と常連客がノリノリで愛を語る『織田島酒店』。
西東京・国分寺市、JR中央線国立駅からバスに揺られること10分。昭和の時代に建てられた巨大なけやき台団地が建つ並木道の正面にその店はある。
2代目店主の織田島高俊さん(54歳)が、東京・高円寺で長年営んだ居酒屋をたたみ、実家の酒屋で2年前から角打ちを始めた。
「両親が酒屋を創業したのが1965年、ずっと酒の配達を生業にしてきましたが、そろそろ親も年を取ってきたし酒屋を閉めるかって話になったとき、息子(和音・かずとさん・25歳)が角打ちをやろうって提案してくれたんです」と、店主は黙々と料理を仕込みながら語る。
「仕事が終わると奥さんと待ち合わせして、毎晩ここで一杯やるのが日課。どの料理も安くて旨い。麻婆豆腐は山椒が効いてパンチがある味。チリビーンズもいいね」(60代、福祉業)
「季節の野菜料理が素晴らしい。カレーもいいけど、パクチー豆腐もクセになる味。何時間も水切りしたコクのある干し豆腐にフレッシュなパクチーが山盛り」(60代、印刷業)と客の舌を虜にする料理は、店主がアジア各国を旅して習得した本場の味だ。
「大学卒業後にアジアを放浪して、社会に出てからもよく旅をしました。実は、曾祖父が旅芸人で、そのDNAを受け継いだのかもしれません。インドで体を壊して1か月入院したことがありましてね、毎日病院で味のしない煮豆のぶっかけご飯みたいなものを食べていたんです。退院前夜、味のない豆に、ほんのちょっとの塩味とスパイスが効いていた。その味に震えるほど感動したんです。それが私の料理人としての原点」
と、しみじみと語る店主の手料理には、母・スミイ(83歳)さんによる自家製野菜がたっぷり。店が建つ実家の裏庭と離れに広大な畑があり、スミイさんが畑で作った野菜はときどき店先にも並び、購入することもできる。
「武蔵野の野っ原でなんもない場所だったけど、近くにけやき台団地という集合住宅ができて、お酒の注文がたくさんあった。隣の土地は倍でも買えっていうからね。お父さんが稼いで畑を買って、私はただただ働いてきたの。昔と客層は変わったけど、こうして地元の人が来てくれてありがたいね」とスミイさんは目尻を下げる。