まだまだ自由に遊びに行けないこのご時世。涼しい部屋の中で読書を楽しんでみてはいかがだろうか。そこで、注目の新刊4冊を紹介する。
『琥珀の夏』
辻村深月/文藝春秋/1980円
カルト視された〈ミライの学校〉敷地で白骨死体が見つかる。自分の孫ではないかという相談が弁護士の法子にあり、彼女はおののく。法子自身が約30年前〈ミライの学校〉の夏合宿に参加していたのだ。死んだのは知っている子!? 初潮、友情、ほのかな初恋という過去と、弁護士の仕事や保育園に落ちた娘の行き先に悩む現在が交互に描かれ、2つを統合するラストも感動的。
『泡』
松家仁之 集英社 1650円
海辺には吹き寄せられるというイメージがある。学校に行けず、呑気症にも悩まされている高2の薫。逃げるように海辺の町でジャズ喫茶を営む大叔父兼定のもとへ向かう。そこでは客として現れ、そのまま居着いた岡田が手際よく働いていた。兼定のシベリア抑留の記憶、薫を圧迫する高校生活の息苦しさ、もてる岡田と女達。さまざまな生のうたかたが一夏のアルバムのよう。
『映画評論家への逆襲』
荒井晴彦、森達也、白石和彌、井上淳一/小学館新書/990円
著者達は「勝手にしゃべりやがれ!」を名乗るレスキュー隊。コロナ禍で苦境にあるミニシアターを無償で応援しようと、仲のいい4氏が集まり上映作品に関するトークをオンラインで配信。その書籍化で、ヤクザ映画の見所、ポン・ジュノ監督の隠れた名作など話題は多彩。日本映画の評判作に関する超絶辛口も。政治も経済も転落の一途の日本。せめて文化の質は守りたいけど。
『ひと』
小野寺史宜/祥伝社文庫/759円
東京下町の名物商店街、砂町銀座商店街。父と母を立て続けに亡くし、大学も中退するしかなくなったハタチの聖輔。天涯孤独の身でコロッケが評判の総菜店で働き始める。気のいい店主夫妻、要領のいい先輩、たかりに来る遠縁の男、故郷の高校時代の同級生青葉との再会。「ひとり」から「り」が剥がれていく過程をハタチの思索を交えながら描き、読後感も温かな青春小説。
文/温水ゆかり
※女性セブン2021年7月15日号