「耳の中がぐじゅぐじゅして水が出てきた」「夜も眠れないほど耳が痒い」──最近、こんな症状を訴えて耳鼻咽喉科を訪れる人が急増しているという。その原因は、誰もが日常的に使用している“アレ”の汚れにあった。耳鼻咽喉科いのうえクリニックの井上泰宏院長が指摘する。
「耳の痛みや痒みを訴えて来院する人が例年の1.5倍ほどに増えています。患者の年齢層は幅広く、高齢者も多くいます」
耳トラブル激増の“犯人”と疑われるのは「イヤホン」だという。昔ながらの小型ラジオをイヤホンで愛聴する高齢者は多く、そのうえリモートワークが主流になり、イヤホンを着けて仕事をする人が増加した。
すっかり生活必需品となったイヤホンだが、同時に耳の病気になるリスクが増しているのだ。
「イヤホンをしていると耳の中の換気が悪くなり、耳の入り口から鼓膜までの通り道である『外耳道』がジメジメとして、カビなどが増殖しやすい状態になる。当然、イヤホンにも細菌やカビが付着します。そのような環境のもと、イヤホンで耳の穴がこすれたりして外耳道に傷がつくと皮膚が炎症を起こし、そこに細菌やカビが侵入して『外耳炎』や『外耳道真菌症』になる怖れがあります」(井上院長)
イヤホンを外したついでに耳の中に指を突っ込んで掻いてしまった人は少なくないだろう。そうした行為で症状が悪化するケースが増えているという。
鼓膜に穴が空くことも
外耳道真菌症が進行すると、思わぬ重症になりかねない。
「患部から出る膿で耳の中が湿気を帯びると、細菌がさらに増殖し、眠れないほどの痒みや痛みに襲われるケースがあります。最悪の場合はカビによる炎症が進行して、鼓膜に穴が空いてしまうこともあります」(同前)
四国大学生活科学部の岡崎貴世教授は、2017年に身近なデジタルデバイスの衛生状態を調べた。
調査ではパソコンのキーボードやスマホ画面、マウスなどの表面に付着する細菌を生理食塩水で湿らせた綿棒でふき取り、培養させたうえで菌数を測定した。その結果、細菌が最も多かったのはイヤホンだった。
「イヤホンから検出された細菌は左右2個で計2万4000個で、参考までに計測した洋式便座の100平方センチメートルあたりの約20倍に達しました。2位のキーボードの7倍もあり、イヤホンに想像以上の細菌が付着していたことに驚きました」(岡崎教授)