北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は6月初旬、約1か月ぶりに公の場に姿を見せ、海外の報道機関は「以前に比べて、激やせした」などと伝えた。一方、北朝鮮の国営テレビでその様子が放送されると、平壌の市民の間からも「おやつれになられた」、「激務で、お休みになる暇がないほど、忙しいのだろう。国民はとても心を痛めている」など、金氏を同情する声が出ていたことが分かった。
これについて米メディアは、米国の朝鮮半島情勢専門家の分析として「体重の変化は健康状態を知る一つの大きな手掛かりとなるものの、平壌市民の声は、いかに市民が金正恩を慕っているかを演出するために、報道機関がわざと言わせている可能性がある。もう少し情勢を見守る必要がある」などと報じている。
金正恩氏をめぐっては、6月以降に北朝鮮メディアが公開した映像や写真から、それ以前と比べ痩せたとの分析が各方面から出ている。ある報道では、「金氏が着用している腕時計のバンドの穴が以前よりも2つか、3つきつく締められている」としての現在と過去の写真を比較。また、顔も1か月前に比べて、明らかにほっそりしていることが分かっている。
これについて、韓国政府は金正恩氏の健康異常説を否定している。韓国統一部(省に相当)の当局者は「金正恩氏の公開活動に関する報道などを注視しているが、健康異常などについて語るべき内容はない」として「健康異常が起こったと判断できるだけの動向はない」との見方を明らかにした。また、6月上旬に報じられた労働党中央委員会や党委員会責任幹部協議会での金氏の写真には、いつもと同じくたばこを吸う様子が撮影されていたことから、「健康異常と拡大解釈するには無理がある」との指摘もある。
だが、北朝鮮国営の朝鮮中央テレビは6月下旬、金正恩総書記が最近、痩せたように見えることについて、平壌市民にインタビューし、「おやつれになられた首領様の姿を見て、皆の目は涙であふれている」などとの声を放送した。
北朝鮮の国営テレビが、金氏の健康状態について、「やつれた」とか「心を痛めている」などと平壌市民のコメントを流すことは極めて異例だ。
米FOXテレビなどは、北朝鮮では昨年来の新型コロナウイルスの感染拡大による国境封鎖などで、中国との貿易が途絶え、食糧などが極度に不足して、市民の不満が高まっていることから、市民のガス抜きのために、わざと金氏の痩せた姿にこじつけて、市民の同情的なインタビューを流している、との識者の見方を紹介している。