「僕は量もいけるクチだけど、お酒そのものより、酒場の雰囲気が好きなんです。だから銘柄には全然こだわりがない。それよりも、飲む時に欠かせないのが歌ですね。飲んで喋って、二次会からは歌を聴いて、歌ったりもして。朝の4時、5時、6時までいきますよ」──そう話すのは、落語家のヨネスケだ。
「酒が進むといえば、やっぱりタイトルに『酒』が入っている歌が定番だよね。なかでも河島英五『酒と泪と男と女』(1976年)、吉幾三『酒よ』(1988年)は、すごく酒に合う」
歌詞にあるように、ついつい自分も飲みすぎてしまうという御仁は多いだろう。
『週刊ポスト』で映画批評を連載する秋本鉄次氏のお気に入りは、ちあきなおみ『紅とんぼ』(1988年)。歌詞の舞台は新宿の裏通りにある、ママがひとりで切り盛りする小さな居酒屋「紅とんぼ」。
「店が立ち行かなくなったママが店を閉めて田舎に帰るというストーリーで、別れを惜しんで集まった常連客の様子を、ちあきなおみが感情こめて歌い上げる。今日はボトルを全部開けるから飲んでって……って、聴いていると本当に新宿の裏通りにその店がありそうに思えてくる。彼女にはいい歌がたくさんありますが、隠れた名曲だと思います。
もう一曲、八代亜紀『舟唄』(1979年)も聴きたくなる歌ですね。歌詞の通り、ちびちび飲むにはピッタリです」
温泉気分で酔うなら
杯を傾けながら、今はなかなか行くことが叶わない、“ここではないどこか”に思いを馳せる人もいるだろう。
音楽評論家で尚美学園副学長の富澤一誠氏が挙げるのは、吉田拓郎『旅の宿』(1972年)。吉田が『結婚しようよ』に続いて発表した大ヒット曲で、青春時代にフォークソングを聴いていた人には、思い出深い一曲だろう。
「温泉旅館での恋模様を見事に歌にしています。歌詞から情景が浮かんでくるし、今聴いてもまったく古びていませんね。コロナ禍で遠出ができないからこそ、この歌を聴きながら、旅の宿でゆったり飲んでいる気分を味わうのもいいんじゃないですか」
地元を離れて暮らす人には、故郷を思い出させる歌が胸に染みる。
1981年の夏の甲子園、報徳学園のエースとして全国制覇を果たした兵庫県出身の金村義明氏(野球評論家)が語る。
「気分よく酔った時に、自然に口ずさんでしまうのが、やしきたかじん『やっぱ好きやねん』(1986年)。たかじんさんには現役時代から可愛がってもらったし、思い入れがあるんです。ステージでタバコを吸い、水割りを飲みながら歌うスタイルに憧れました。
あとは上田正樹『悲しい色やね』(1983年)もよく歌う。関東にいるからこそ、あえて関西の歌を歌うんですよ」