6月16日、安定的な皇位継承策を議論している政府の有識者会議は、専門家の意見案をまとめた。その会合で、座長の清家篤・慶應義塾大学名誉教授は今後の議論について、「まずは現在の皇位継承の流れを前提とし、その上で皇族数の確保のための方策を検討していきたい」と述べ、「男系男子」による皇位継承は変えずに女性宮家創設の議論を進める方向が決まった。
一方で、菅政権の有識者会議の議論では、「男系男子」の皇位継承を維持する方法として旧皇族の皇籍復帰が検討されている。
旧皇族の復帰については一部の保守派に支持があり、安倍晋三・前首相もかつて言及したことがある。しかし、9年前の野田政権の有識者ヒアリングの論点整理では、〈今回の検討の対象とはしないことが適当である〉と除外されていた。
それが今回の有識者会議では専門家ヒアリングの質問項目に、旧皇族など皇統に属する男系男子について、「皇族との養子縁組」と「新たに皇族とする」という2点を盛り込んで意見を聞いた。八木秀次・麗澤大学教授が語る。
「内閣官房の皇室典範改正準備室は有識者会議の落とし所を探るため準備段階の昨年2~4月に内々のヒアリングを行なった。私も呼ばれたが、事務方から旧宮家の臣籍降下(皇籍離脱)の経緯を教えてほしいと言われた。小泉内閣や野田内閣の過去の有識者会議ではオーソライズされなかったから資料がなく、一から勉強しているようでした。旧皇族の男系子孫の皇籍復帰案を重要視しているからだと考えている」
八木氏の指摘通り、6月30日の有識者会議は女性宮家創設と並んで、「養子縁組」方式を軸に旧皇族の復帰を検討する方針を決めた。
「菅首相は、国民向けの『女性宮家』創設と、保守派の支持が強い『旧皇族復帰』の2案を同時に打ち出すことで、批判を避けながら国民的関心を呼び、支持率を上げて『政権延命』につなげようとしているのでは」(自民党ベテラン議員)
だが、この旧皇族の復帰こそ現皇室が敏感にならざるを得ないものだ。皇室ジャーナリストの久能靖氏の指摘。
「天皇家は古来の宮中祭祀を受け継いできた家系で、多くのしきたりもある。天皇陛下や皇族方はそれを肌で感じてお育ちになってきた。
一方、旧皇族の男子は皇籍離脱後に民間人として生まれ、皇室の伝統や祭祀を受け継いでいない。それを血縁という理由だけで法律で皇室に戻すのは妥当ではないという判断で政府の議論の対象にならなかった。現皇室は旧皇族の復帰を容易には受け入れ難いのではないか」
宮内庁長官の「天皇陛下は五輪開催が感染拡大に繋がらないかご懸念されていると拝察している」という爆弾発言の裏には、皇室制度の改革を自らの延命に政治利用しようとする菅首相への“お上の憂慮”が垣間見える。
※週刊ポスト2021年7月16・23日号